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飲食店経営はデスマッチよりも危険

こんにちは。

 今日は、『デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』を読んだ感想について書いてみたいと思います。

 作者の松永光弘さんと言えば、ミスターデンジャーと呼ばれたプロレスラーです。

 2階席からダイブするなど、どう見ても命を落とすぐらいの危険がありますよね。

 そんな松永さんがプロレス現役時代にステーキハウスの経営を始め、それから24年たった今、「断言しよう。飲食業界は地獄である」と語っているのです。デスマッチを生き抜いた屈強な男にいったい何があったのでしょうか。

1 体がボロボロになっても厨房(リング)に立つ

 お店のオープン当初は、寝る暇もなく働き、げっそりとやせてしまうほど過酷な状態だったそうです。しかもまだプロレスも続けていたので、デスマッチを実施した後は、からだ中が傷だらけになり、動くのもつらいといった状態になることも多々あったそうです。ところがある日、後楽園ホールで松永さんのデスマッチを観戦したお客さんが、その帰り道にステーキハウスに立寄ったところ、すでに松永さんが厨房でステーキを焼いている姿を見てびっくり仰天。思わずお客さんが「大丈夫ですか?!」と声を掛けたが、松永さんはお客さんをがっかりさせないようにと必死で厨房に立ち続けたそうなのです。お店の命運がかかるとなるとそこまで体に鞭打って働かざるを得ないという地獄がまっているということが伺えます。

2 狂牛病ショック

 ステーキハウスの経営が軌道に乗りそうな2001年に、狂牛病騒動が起こります。テレビでは連日、牛肉を食べるのは危険だとあおられ、ステーキハウスの客足がぱったりと途絶えてしまいます。

じつは国内では狂牛病で亡くなった方はひとりもいないのだ。風評被害で自殺してしまった畜産農家の方や、経営難で破産してしまった飲食業界の人たちはたくさんいるのに・・・そういう部分もほとんど報じられない、というのがこの国のメディアのあり方であり、それはコロナ禍でも変わっていない(79頁)

 デスマッチではあらかじめ危険がわかっているため、何とか生還するために策を講じることができるようですが、飲食店経営になると、そうはいきません。ある日突然、予測できない事態に巻き込まれて、にっちもさっちもいかなくなって、最悪の場合には命まで失うという危険があるというのです。

3 貯蓄が0円に

 飲食店経営でかなりの売上をたたき出した年もある一方で、貯蓄が0になってしまったという、ジェットコースター28週分のスリルを味わうこともあるそうなのです。そんなときに松永さんは、もともと500万円の借金から始まっていたので、まだマイナスではないと頭を切り替えて乗り切ったのだとか。狂牛病騒動でも

ギブアップせずに店を手放さなかったこと、常連さんをはじめとしたお客さんが残ってくれたこと(91頁)

が心の支えとなったようです。フォールされてカウント2.5のところで、応援してくれるファンの顔が浮かんできて何とか凌げたようです。

4 チェーン展開と多角経営で失敗

 飲食店経営をしていると、様々な儲け話に触れる機会が多くなります。その中でもステーキハウスのチェーン展開の話が来たときに、松永さんは飲食業界では有名な本部丸儲けシステムに欲を出してしまったと振り返っています。

たしかに「本部丸儲け」のシステムは存在したが、その逆もしっかりと存在していたのだ。それはフランチャイズ店が経営に行き詰り、各方面への支払が滞ってしまったとき、すべての請求は本部・・・つまり私のところに来てしまうのだ!(100頁以下)

 ここで松永さんは、チェーン店の発注ミスで発生した900万円の損害を被ってしまいます。

 このチェーン展開の失敗で懲りたと思いきや、松永さんは別の外食ビジネスにも手を伸ばしていきます。今度は逆に、ラーメン店のフランチャイズの傘下に入って、ラーメン店を運営するというものでした。ところが、これもうまくいかず結果的に1000万円の損害を被ることになります。結局、2回の失敗で約2000万円を失う羽目になってしまったのです。

 やはりタッグマッチでは味方に足を引っ張られてしまうと、自分の力を存分に発揮できなくなってしまうように、飲食店経営においてもコンビネーションがうまくいかなければ地獄が待っているということを身をもって教えてくれています。

5 バイトが集まらない

 飲食業では人材確保が難しいと言います。とくに松永さんが憤ったのは、忙しい中でバイトの面接時間を作っていたにもかかわらず

面接の約束をしていた人がすっぽかす、というケースがなんども繰り返されたからだ。(114頁)

また、店をオープンしてもスタッフが足りないというのが本当に恐怖だとも述べています。バイトをうまく雇えたとしても、バイトテロというリスクもあるため、松永さんは常に厨房で目を光らせていたそうです。

そういえば一度、金庫荒らしの常習犯がバイトとしてウチにもぐりこんだことがあったのだが、「この店には隙がない」と言って去っていった。特に睨みを利かせていたつもりはないが、やはり私がいるだけで一定の効果はあるようだ。(119頁)

6 近隣からのクレーム

 飲食店を経営していると、店の行列、音、光、駐車場のトラブルなど、近隣住民からの様々なクレーム地獄が待っているのだとか。それでも松永さんは

クレームをつけられるとすぐケンカ腰になる人や、ケンカを売って圧力で解決しようとする人もいるけれど、少なくとも店を営むのであれば、絶対にケンカをしてはいけない。相手が近所の人だったら、なおさら拳を振り上げるようなことをしてはダメだ。(135頁)

という心構えで、隣の住民が柵に腰掛ける人がいて困るというクレームがあると、すぐさま自費で18万円かけて、人が腰掛けることができない高さの柵をこしらえたりして乗り切ったそうなのです。

7 コロナショック

 やはりコロナショックはかなりダメージが大きいようです。

 ボディーにいいパンチを食らって、ガクッと頭が下がったところに、まったく予期せぬ角度から、とんでもないスピードでハイキックを食らったような感覚だ。(186頁)

 あと半年で収束すると言われれば、まだ立ち上がれるが、いつまで続くかわからないと言われると、かなり精神的にしんどくなると述べられています。

 このように飲食店経営は、一難去ってまた一難、とデスマッチよりもかなり過酷ですが、これまでの松永さんの体験が、全国の飲食店経営者にとって励みになればという思いで本が執筆されているところに非常に感銘を受けました。実体験や売上などの実際の数字を惜しみなく伝えてくれる著書は、非常に価値があると思いますね。

 では、また。

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