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鹿児島県大嘗祭参列事件

こんにちは。

 大嘗祭とは、新天皇が即位して最初に行われる新嘗祭です。もともと日本では、主食の米が不作になると途端に国民が飢えに苦しむことから、天皇陛下が国民のために五穀豊穣を祝う儀式をしてきました。

 今日は、大嘗祭に公費を使って参列することが問題となった「鹿児島県大嘗祭参列事件」(最判平成14年7月11日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 鹿児島県知事は、皇居で行われる天皇の即位の礼に伴う大嘗祭へ参加する際に、その旅費として鹿児島県から7万5660円を支給されていました。これに対して、鹿児島県の住民等が、公費で大嘗祭に参加することが、憲法20条3項にいう政教分離の原則に違反するとして、旅費の返還を求めて提訴しました。

2 住民側の主張 

 明治維新後、新政府は、戦争遂行のための強力な国民統合の手段として、皇室の宗教的権威を利用して、天皇崇拝を中心教義とする国家神道を形成することを計った。明治政府は神仏分離、天皇崇拝中心の神道教義の組織的布教活動をすすめたが、これに対する反対の動きが強まったことから、結局、神社神道を祭祀に専念させ、宗教ではないという建前をとることにより、国家神道が事実上国教化されていた。その後、GHQが神道指令を出し、徹底的な国家と神道の分離を命じていたように、大嘗祭において天皇に神格が付与されるとすることは国家神道の頂点である皇室祭祀の中で中核をなす部分であるので、とくに厳格な分離が貫かれるべきである。だから憲法20条3項、89条に規定された政教分離原則は、国家が宗教に対して関心を持つことは許さず、一切の宗教的色彩を帯びた行為をすることを禁止しているのだ。今回の儀式は、万世一系の現人神である天皇の即位と統治を宣言する皇室の神道行事であり、宗教色は明白である。よって、知事に旅費相当額の損害賠償を求める。

3 鹿児島県知事の主張

 主催者である皇室は宗教団体ではありません。大嘗祭は、仏教や神道、キリスト教といった大きな分類によれば神道形式に入るかもしれませんが、皇室固有の伝統的な方式で、神道神社の方式によるものではありません。知事が社会的儀礼上にある儀式に参列するという行為も、客観的に目に見えない礼を参列という形で表すものであって、宗教的意義はありません。参列者が拝礼により一斉に神道の信仰を表明することはあり得ず、拝礼の意義は、伝統的皇位継承儀式に対する敬礼以外の何ものでもないはずです。

4 最高裁判所の判決

 大嘗祭は、7世紀以降、一時中断された時期はあるものの、皇位継承の際に通常行われてきた皇室の重要な伝統儀式である、鹿児島県知事は、宮内庁から案内を受け、三権の長、国務大臣、各地方公共団体の代表等と共に大嘗祭の一部を構成する悠紀殿供饌の儀に参列して拝礼したにとどまる、大嘗祭への鹿児島県知事の参列は、地方公共団体の長という公職にある者の社会的儀礼として、天皇の即位に伴う皇室の伝統儀式に際し、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇の即位に祝意を表する目的で行われたものであるというのである。
 これらの諸点にかんがみると、鹿児島県知事の大嘗祭への参列の目的は、天皇の即位に伴う皇室の伝統儀式に際し、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇に対する社会的儀礼を尽くすものであり、その効果も、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるようなものではないと認められる。したがって、鹿児島県知事の大嘗祭への参列は、宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものではないと解するのが相当である。
 よって、住民側の上告を棄却する。

5 大嘗祭参加への公費負担は憲法違反ではない

 今回のケースで裁判所は、知事が大嘗祭に参列した行為は、大嘗祭が皇位継承の際に通常行われてきた皇室の伝統儀式であり、他の参列者と共に参列して拝礼したにとどまることと、参列が公職にある者の社会的儀礼として天皇の即位に祝意を表する目的で行われているので、憲法上の政教分離原則に違反しないとしました。
 今回のケースは平成の大嘗祭に関するものでしたが、同じようなことが令和の大嘗祭でも問題となりましたので、参考になれば幸いです。

では、今日はこの辺で、また。


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