コワーキングについての私的考察
コワーキングやシェアドオフィスについて、自分の経験をもとに、考えていることを書いていきます。偏見もあるかもしれません。他の方の経験をぜひ教えてください。
1, コワーキングへの偏見
ただ単に「同じ空間の中に、ぞれぞれ(完結した)違う仕事をしている人達を置けば、自然に交流が始まり、新しい価値の創造につながる」というのは幻想だと思っています。そういうコンセプトを謳っている取り組みや施設はあちこちにありますが、果たしてコンセプト通りの成果を挙げているのだろうか?
こう感じている理由は大きくは2つあり、下記に詳細を書きます。
2, 企業内での「ナレッジ・マネージャー」としての体験
従業員4万人規模の企業内で、2000年代にブームになった「ナレッジ・マネジメント」に取り組んでいました。
要約すると
・企業内での(偶発的な)コラボレーションを活性化したい
・その為にはまず前提となる「コンテキストの共有」が必要
→誰が誰で、どんな情報を持っているか、今どんなプロジェクトに取り組んでいるか、どんな業務課題を抱えているか・・・等を「形式知」化し公開。
・そのコンテキストを理解した上で「自分はこんな支援が出来るよ」「自分の部署で取り組んでいるテーマと似ているから、一緒にやらないか」という呼びかけが生まれる(はず)。
・リアルな場(オフィス)でも従業員同士が偶発的に出会える場所を設ける
→オフィス空間内に意図的に「溜まり場」が生まれるように設計。カフェの他に随所に休憩/リラックススペースを設置、自席以外でも働けるようになっていた。数階の移動は内階段を使い、偶然のすれ違いの機会を増やした。
・情報システムとしては「各従業員の業務内容やプロフィールが分かる電子電話帳」「電子掲示板、電子会議室、その中に『最終的に業務に結びつくなら何を書き込んでいい板』を開設」「文書の共有システム」「全館無線LAN」などを設置。
「ナレッジ・マネジメント」の基本は、組織のどこかに既にある知見は再活用することで重複作業を避け、組織としての無形資産を充実させる、という考え方で、「自分が持っている経験や知恵は他の誰かの役に立つ、逆も同様」ということへの理解が大事です。
組織内でのコラボレーション/コワーキング活性化が目指す姿でした。
で数年経ってどうなったのかというと・・・
期待していた偶発的な協力関係や自発的なプロジェクトはほとんど生まれず、相変わらず「縦組織(ライン)」のままでの仕事が99%。オフィス内のカフェで隣同士座っても、会話も無く、それぞれが黙々とキーボードを叩くだけ。電子掲示板も少数の決まったメンバーが書き込むだけ。見えていませんが、同じような文書(企画書、提案書、報告書)がどんどん作られ、ろくに読まれずに蓄積されていく。
まぁ、定着するのに時間が足りなかったのもあるかもしれませんが、みんな主旨は理解しながらも、頭と身体が付いていかない状態だったかと思います。
特にオフィス内のカフェでの光景は衝撃的でした。顔見知りでないとしても同じ企業内で働いている「同僚」なのに、挨拶もせず、お互い無視して、ただただ自分の作業(キーボードをポチポチ)に専念。まだ紙の資料を広げていれば大体なにをやっているのが推測出来ますが、ラップトップ画面を覗き込むのは流石に抵抗がありますしね。
やはり「(シャイな)日本人同士だと偶発的なコミュニケーションは生まれにくいのか・・・」と絶望しました。
今はまた何周りかして「社内SNS」とかが盛んに利用されているようですが。
3, 海外のビジネスカンファレンスでの良い体験
それ以前の1990年代にはマーケティング系の仕事をやっていたので、海外(主に北米)のそれ系のビジネスカンファレンスに参加する機会がありました。2000年代になるとIT系、メディア系のビジネスカンファレンスに参加するようになりました。
当然、様々な国の様々な企業から参加者がやってきますが、カンファレンス内のランチタイムや夜のパーティとかで、隣り合った者同士、自然に挨拶〜自己紹介〜取り組んでいる仕事の話に広がっていきます。実際のその縁で相手の会社見学に行くこともありました。いわゆる「ネットワーキング」とうやつが自然発生している訳です。それ主目的にイベントに参加している人も多いのでしょうね。縁もゆかりもない日本人サラリーマンとの会話に付き合わせて悪かったかな。
特定のテーマのビジネスカンファレンスに参加している同士なので、関心事も抱えている課題も似通っていることも多く、あとはそれぞれの国の状況の違いや、所属企業の規模の違いくらい。実際にコラボレーションに発展する確率はそんなに高くないですが、そこで得られた情報から本当のコラボレーション先を見つけたり、キーになる人物を紹介してもらったり。
実はそういう場で、まだ日本発売前の「iPhone」初号機を弄らせてもらったり、まだ日本上陸前の「Facebook」を教えてもらったり、ということもありました。
ITで言うとかつてのシリコンバレーでは、人材も流動的なので、そういうネットワーキングが日常的に発生していて、ヘッドハンティングやら共同プロジェクトやらIPOやらM&Aやらがどんどん起こる状態だった訳です。今では世界各地にそういう場所が出来て、有能な人材が集まっているはず。
日本人同士の場合との違いは何なのですかね?
英語話者同士の気軽さ、お互いを知ることの抵抗の少なさ、知らないことを聞くことへの抵抗の少なさ、逆に隣同士なのに声を掛けないと変なやつだと思われてしまう文化。サンドイッチとか食べながら話してもマナー違反じゃない気さくさ。「世界は良くなる、俺が変えてやる」と本当に思い込んでいる前向きさ。
その感覚のまま日本で同じことをやると変人扱いされてしまいますが・・・。
4, じゃあどうする?
結局、自分が勤務していた企業の中でコラボレーション/コワーキングを活性化させる為には
・特定の「(時限)プロジェクト」を立ち上げて、様々な人材をアサインして活動させる。プロジェクトはゴールが明確なものとそうでないものがあっていい。
・ワークショップなどのイベントで参加者を募り、ファシリテーターがコラボレーション/コワーキングを促す。
・企業内向け展示会や発表会などのイベントを開催して、異なる職種間のコミュニケーションの場を作る。
・そうやってコラボレーションを経験した従業員が元の職場に戻っていた時に、新たな人脈を活かしたファシリテーターとして機能することを期待。
など、結局は「ハコ」だけではないイベント・ドリブンな「上からの仕掛け」がどうも必要なようです。こういう関係性構築を通じて、結局は「飲み会」まで行って本当に「仲間」になれる、という流れ。昭和と言えば昭和。
同じ企業内でもコラボレーション/コワーキングなんてなかなか発生しないのに、所属企業も違う、業種も抱えているテーマも違う者同士が「コワーキングスペース」で同居したところで何が起きるの・・・?
と思っていました。ところが・・・
5, 余談:「喫煙所」が果たしていた機能
よく話題になっていたのが「そういえば喫煙所って偶発的出会いの場になっていたよね」と。喫煙率も減って、オフィス内に喫煙所を設けないことも増えていると思います。ビル丸ごと禁煙になっている場合もありますね。
喫煙所の特徴
・所属や年齢層の区別無く利用する
・少し「業務時間中なのにサボっている」という共通の罪意識がある
・手持ち無沙汰
・リラックスしている
・長期間留まる場所ではない
・段々「顔見知り」になる
これを代替する施設や仕掛けのアイディアを色々出して、試したのですが、どうもうまくいきませんでした・・・。
6, あれ?もしかして?
自分は12月に和歌山県の白浜町に移住してきたのですが、そこで出会う人達の気さくさにびっくりしました。もちろんビジネス的な付き合いじゃないんですが、入ったカフェや小売店で「12月に引っ越してきたんですよ」と言うと驚くほど会話が弾んで、色々なことを教えてくれたり、すぐに知り合いになってしまいます。関西圏だから?人口2万人くらいの小さな町だから?友達の友達は友達という狭いコミュニティだから?
いずれにしろ東京で働いて暮らしていた時には体験したことのない人と人との距離感の近さでした。もちろん東京でも根っからオープンで社交的な人はいるのかもしれませんが。
以前勤めていた会社も大阪のグランフロントの中にコラボレーション施設を構えていたので、もしかするとそこでは「偶発的なコラボレーション」が起きていたのかもしれません。
ということで、もしかすると「ワーケーション」先として地方都市の「コワーキングスペース」には新しい価値創出の可能性があるのかもしれません。もちろん、そういう素養のある人達と偶発的な出会いをしなければならないですが。
一例として南紀白浜について書いてみました。
*逆に言うと「情報セキュリティ」とか「個人情報(保護)」とかに固執し過ぎると、何も新しいことは起きないのかもしれません。そのあたりのバランスはまだまだ模索途中という感じでしょうか。
7, 余談:コワーキングスペース/シェアドオフィスのデザインについて
なんとなくですが、「ウッディな内装、大きいフラットな机」みたいなイメージがありますよね。新規に開設させる施設は大体そんな感じ。非常にステレオタイプ。
あれって、オフィス家具メーカーの陰謀じゃないかとも思ってしまいます。もっと色々な形態があってもいいし、選択の余地があるといいですね。
必ずしも新しい建物でなくてもいいし、むしろそういう施設を利用するフリーランサーやスタートアップ企業の人達はなるべく経費を抑えたいはずだから、基礎の建物や施設をちょっとリノベーションしたレベルの施設で充分なんじゃないかと思います。通信環境だけしっかりしていれば。
快適な場所よりも、むしろ「ハングリー精神」を掻き立てるような場所の方が面白い人が集まるんじゃかないか、と。HPもAppleもスタートは「親の家のガレージ/小屋」からですからね。
関連する「街のオフィス化」「オフィスの街化」という話を下記で書いています。
日本各地の「コワーキングスペース」も単にリッチや設備のアピールよりも、徐々に「イベント」や「ファシネーション」をウリにするところが増えてきましたね。その辺が日本型のコワーキングの落とし所なのかもしれません。
(続きます)
↓ ナレッジマネジメントの教科書(理論としては今でも使えます)
↓ 利用者と運営者向けの教科書的なもの