見出し画像

ゼノブレイド2の英語版が方言だらけの理由【日英比較】

※ゼノブレイド2のネタバレが含まれます。

ゼノブレイドシリーズの英語版には、原作(日本語)にはない特色があります。訛りです。

通常日本のゲームの英語版はアメリカ英語なのですが、ゼノブレイドシリーズはイギリス英語でローカライズされています。
これはとてもとても珍しいことです。

ゼノブレイド3の発表は今から約半年前の2022年2月10日、
ニンテンドーダイレクトの配信で行われました。
そのときに同時視聴配信を行っていた海外配信者のアーカイブをいくつか見たのですが、PVの一言、二言目あたりで「もしかしてゼノブレイド?」って見抜いている方が結構いましたw
「イギリス英語だからゼノじゃないの?」って。

「イギリス英語」というのが、海外におけるゼノブレイドのアイデンティティの一つなのだと感じさせられた印象的な出来事でした。

この特質によって多大な恩恵を受けているキャラクターがいます。
ゼノブレイド2のニアです。

↑亀〇のシーン

なかなか強烈な訛りですよね。
これは Welsh accesnts(ウェールズ訛り)というイギリスの方言です。
ニアの話し方が好きだという海外ファンは多く、
ウェールズ訛りはニアの個性の一つとして受け入れられています。

ところでみなさんは先ほどお見せしたシーンで
ニア以外のキャラクターの訛りは分かりましたか。
とても短いシーンだったので分かりにくかったかもしれませんが
なんとこのシーンで登場したキャラクター(レックス、ニア、ジーク、ヒカリ)全員別々の訛りで話していますw
それもそのはず、ゼノブレイド2では訛りが6つも登場するのです。

原作ではジークとサイカの関西弁を除いて、方言を話しているキャラクターは登場しません。
なのに英語版ときたら方言だらけなのです。なぜ?

今回の記事では、ゼノブレイド2の登場人物のそれぞれの訛りの解説と方言だらけの世界にローカライズされた理由をお話していきます。

目次
作中に登場する訛り
なぜ英語版では方言の要素が追加されたのか

作中に登場する訛り

ゼノブレイド2に登場する訛りは、Northern English accents(イングランド北部)、Welsh accents(ウェールズ)、Scottish accents(スコットランド)、Recieved Pronunciation(イングランド南部)、Australian accents(オーストラリア)、General American accents(アメリカ)の6つです。

ローカライズ(翻訳)チームはこの6つの訛りを意図的に用意したと考えられます。

なぜなら、これらの訛りは国(巨神獣)によって割り当てられているからです。

リベラリタス島嶼群/レックス・・・・・Northern English accents
グーラ領/ニア・・・・・・・・・・・・Welsh accents
スペルビア帝国/メレフ・・・・・・・・Scottish accents
ルクスリア王国/ジーク・・・・・・・・Recieved Pronunciation
インヴィデイア烈王国/ヴァンダム・・・Australian accents
アーケディア法王庁とブレイド・・・・General American accents

(アーケディア法王庁はブレイドの管理・供給を行っているため、ブレイドもアメリカ英語だと考えられる)

(それぞれの訛りの特徴についてはこちらの方のサイトが大変参考になります。)

これを裏付ける証拠もあります。
それはスペルビア帝国の英語版の名前 Mor Ardain です。

ゼノブレイド2の国名は七つの大罪が由来です。
スペルビア(sperbia)は「傲慢」を意味するラテン語です。
英語版の Mor Ardain は「甚大な傲慢」を意味するスコットランド・ゲール語なのです。

それにホムラ(ヒカリ)の英語版の声優 Skye Bennetさんはイギリス出身ですが、(ホムラがブレイドのため)アメリカ訛りで話さなくてはならなかったとこの動画で語っています。

以上のことから、作中にさまざまな方言が登場するのはローカライズチームによる意図だということが分かります。

ではなぜ原作にはない方言要素を意図的に追加したのでしょうか。

なぜ英語版では方言の要素が追加されたのか

その理由はズバリ、イギリスには「共通語」がないからです。

まず標準語と方言の関係性について簡単にお話しします。

世界で最も話されている言語が英語であり、その背景は欧米列強による植民地化の歴史であることは、ご存じの方が多いでしょう。
そう、かつては国が新たな土地を支配したとき、現地語の使用を禁じて、自国の言語を教育させることで統制をはかっていました。

標準語と方言の関係性はこれと同じです。
国は全国共通で意思疎通のとれる標準語を設け、方言を矯正する――
――この考え方をもとに国語教育が行われていたのは、日本でもイギリスでも同じでした。

先程ジークの訛りとして挙げた Received Pronunciation(RP) ですが、
これはもともとロンドンで大学教育を受けた上流階級による階級方言でした。国はRPを標準語とし、学校の教育はRPで行われました。

しかしながらイギリス全土でRPが浸透することはなく、さまざまな地域方言や階級方言が根強く残りました。

RP話者は、アナウンサー、医者、教師などの多くの人から信頼される
社会的地位の高い人に限られました。

そして現代では、さまざまな価値観が認められるべきだとする「多様性」が重視され、方言が尊重されています。

もはやいい職業に就くためにRPを習得する必要もなくなりました。
BBC(日本でいうNHKみたいなもの)のニュースでは、さまざまな方言のアナウンサーが登場がしているのです。

イギリスに「共通語」がないのは、標準語が普及しなかったからなのです。

一方日本はというと、標準語が普及しました。
東京に住んでいなくとも、たいていの人が共通語を話せます。
むしろ若者の方言離れで、方言は衰退の一途をたどっています。

つまり日本とイギリスは真逆なのです。

ゼノブレイド2は、巨神獣という「島」が無数にあり、その「島」に形成される「国家」が複数登場する世界のファンタジーです。

別の国に行ったら、話すことば(方言)が変わる方が自然だと思いませんか。
全国どこに行っても共通語の日本だから、ことばが変化しなくても違和感がないのです。イギリスにはそんな「共通語」は存在しないのです。

参考文献
上条雅子(2003)「英国における標準英語とその変化」[PDF File] 

http://human.kanagawa-u.ac.jp/kenkyu/publ/pdf/syoho/no36/3601.pdf


いいなと思ったら応援しよう!