万人に薦めたい名著『How Will You Measure Your Life?』
これまで数多くの本を読んできた僕だが、最高の一冊を選べと言われたら間違いなくこの本を紹介する。
『How Will You Measure Your Life?』
Clayton M. Christensen
実は僕がnoteで最初の記事に取り上げたのが本書だった。当時から4ヶ月が経過し、投稿のコンセプトも変わり、文章の書き方も少し変わった。そこでもう一度本書についての記事を書いてみたいと考えるようになった。
著者のクリステンセン教授について
クリステンセン教授はハーバード・ビジネス・スクールの教授であった。残念ながら2020年の年初に亡くなられたが、生前多くのビジネス戦略やマーケティング分野における名著を世に残された。
中でも『イノベーションのジレンマ』や『ジョブ理論』は日本企業にも大きな影響を与えた。
クリステンセン教授は学者であるとともに、敬虔なモルモン教徒であったことでも知られる。
彼の極めて自律した人格が、優れた研究結果を生み出す動力になったと言われている。強い信仰心が彼自身の支えになっていたのだろう。そんな彼の研究結果と宗教観が合わさったのが本書だ。
本書で語られること 幸せとは何か?
本書は教授の他の著書とは異なるものである。『イノベーションのジレンマ』や『ジョブ理論』などがビジネスの世界で通用する法則を導くものであるのに対して、本書は人生の法則、人生における成功とは何かを問う万人向けのものになっている。
教授は、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業した優秀な生徒たちのうち、あまりにも多くの人が社会に出てから道を踏み外してしまうことを憂いていた。
有名大学を優秀な成績で卒業し、有名企業で働くことは多くの人にとって「成功」と思われるかもしれない。しかし、輝かしい経歴を持ちながらも孤独な生活を送ったり、疲弊してしまう人もいる。中には犯罪者となって一生の大半を刑務所で送る人もいる。
なぜこのようなことが起こってしまうのか?僕たちは何を目指して生きていけばよいのか?ビジネスで成功することが必ずしも幸せではないなら、一体何が幸せなのか?それを知るための「ヒント」が本書には記されている。
本書はあくまで「ヒント」しか与えてくれないのだ。教授は「こうすれば幸せになれる」とか「○○をしなさい」とかいった断定的な助言はしない。その答えは自分自身で見つける必要がある。
教授は人それぞれ幸せの定義や価値観が異なることを知っている。だから、あえて具体的な答え(what)を示すことは避け、答えを探し出す方法(how)に絞って理論を展開する。その理論に、これまで教授が発見したビジネスでの知見が織り交ぜられている。
僕なりに本書の内容を簡潔にまとめておきたい。教授からのメッセージを僕は以下のように受け取った。
仕事とは人生の一部でしかない。仕事だけを充実させた「部分最適」を目指してはいけない。家族や友人との関係性を大切にし、調和のとれた人生の「全体最適」を模索していこう。
自身の優先順位(priority)とそれを成すための手段(process)は何か?常にそれらを研ぎ澄ますことによって、自分自身が大切にしたいものが見えてくる。短期的成果にのみ固執せず、長期的なゴールを見据えることが重要だ。
余談
本書は日本語版も発売されている...のだが、タイトルに関しては絶対に原著のままが良かったと僕は思っている。
日本語名タイトルは『イノベーション・オブ・ライフ』。さらに「ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ」と副題がつけられている。
日本では『イノベーションのジレンマ』が著名なので、それにちなんだタイトルにしたのだろうと推測。しかし、本書を読む限りクリステンセン教授は「人生にイノベーションを起こそうぜ!」なんて一言も発していないと思った。
常に彼が投げかけているのは「幸せとは何か?」「どうやって生きるのがよいか?」そして「あなたの人生の成功はどうやって評価するべきか?」と、まさしく原題の How Will You Measure Your Life? という点についてなのだ。