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ついやってしまう体験の作り方【書評】

こんにちはtozicaです。
今日はきんきん金曜日!

この記事は、エロゲーとか作ってるクリエイターの制作日記です。
noteなので直接的なエロ表現はありませんが、えっちな話が苦手な人は気をつけてね。

注意書き

ついやってしまう体験の作り方 を読んだ

何年か前に出て、割と話題になった本ではありますが、今さらながら買って通読しました。
なかなか勉強になった。

この本は、一言で説明するなら、ゲームで使われてる認知心理学的なテクニックを紹介して、それをビジネスにも活用してみよう、的な趣きの本です。
任天堂でWiiとかの開発に携わってた方が書いた本らしい。
巷で出回っている多くのゲームには、プレイヤーを楽しませるための創意工夫がいくつも盛り込まれているわけですけど、この本ではそういった工夫を紐解き、整理した上で、それをゲーム以外の問題(より具体的にはビジネスにおける活動)に対して適用するためにはどんな考え方をしていけばよいか…ということを論じています。

でもまあ〜、個人的には後半パート(ビジネスの話)は割とどうでもよくて、それよりも前半の「既存の名作ゲームを認知心理学的な側面から整理していく」パートの方が断然興味深かったし、自分の創作に活かせそうな感じでしたね。
そこで出てくる話の大半は、ある程度ゲームデザインの勉強をしたことがある人なら断片的に聞いたことのあるような話ですけど、それらをちゃんとゲーム全体を俯瞰する形で、総体的な知識として一冊に纏まっているというだけでも、かなり読んだ価値があった気がしてる。

以下、ざっくり読書メモ。

直感のデザイン

「直感のデザイン」の章では、マリオやゼルダなどを例にあげて「つい遊んでしまう」デザインの作り方について論じていました。

チュートリアルの作り方として、操作説明の文章をつらつら読ませるのは悪手であり、プレイヤーが自然と操作を試してみたくなるようなステージ設計にするべき…という話は、古今東西さまざまなゲーム制作の参考書で出てくる話ですが、この章で語られるのもその類の話です。
ゲームデザイン論の中でも、心理学におけるアフォーダンスと結び付けられて語られることが多いタイプの話ですね。

  • なぜ「スーパーマリオブラザーズ」の1-1があのような構成で作られているのか?

  • ゼルダの謎解きはどのような直感をプレイヤーに期待して設計されているのか?

この本ではこのようなゲームデザインを「直感のデザイン」と呼び、このようなデザインにおけるプレイヤー体験は「仮説を立て → 試行して → 歓喜する」というような流れとして抽象化されています。

驚きのデザイン

続く「驚きのデザイン」の章では、ドラゴンクエストを例にあげて「つい夢中になってしまう」デザインの作り方―――言い換えればプレイヤーにゲームを継続させるための工夫について論じています。
つまり、ゲームを遊び始める段階などにおいては上述の直感のデザインは有効に働くわけですが、そればかりが続いていくと「プレイヤーの仮説通りに物事が進み続ける」ことになり、プレイヤーは飽きてしまうよね、という問題提起をしています。

  • なぜ「ドラゴンクエスト」の中盤あたりで「ぱふぱふ」が登場するのか?

  • なぜ「ドラゴンクエスト4」の中盤あたりで「カジノ」が登場するのか?

  • 「ドラゴンクエスト5」の結婚イベントのゲームデザイン上の意義は?

ここで提示されるゲームデザインは「驚きのデザイン」と呼ばれていて、このようなデザインにおけるプレイヤー体験は「誤った仮説を立て → 試行して → 驚愕する」という流れとして抽象化されています。

またここでは「タブー」についても驚きのデザインの一つとして扱っています。
つまり現実世界では体験できないような物事がゲームの中に出てくる、というのもプレイヤーにとっては一つの驚きである、ということです。
タブーのモチーフについても整理されていて、本書の中では以下の10種のモチーフが提示されています。

  1. 性的なモチーフ

  2. 食のモチーフ

  3. 損得のモチーフ

  4. 承認のモチーフ

  5. 汚れ・穢れのモチーフ

  6. 暴力のモチーフ

  7. 混乱のモチーフ

  8. 死のモチーフ

  9. 射幸心・偶然のモチーフ

  10. プライベートのモチーフ

個人的にはこの章が一番面白かったなーと思ってますね。
ゲーム内の要素は「直感のデザイン」か「驚きのデザイン」のどちらかに分類できて、ゲームにおけるプレイヤー体験においてそれらはどちらか片方がずっと連続しないようなリズムで組み合わせてでてくる…という言説は「なるほど!」と唸らされる納得感がありました。

以前この日記の中でエロゲーのゲームデザインについて語ったことがありましたけど、そこで書いた「ゲームが主要素でエロ要素が従属要素」のケースというのは、まさに今回の話と対応するなーって思いますね。

物語のデザイン

最後の「物語のデザイン」の章では、「風ノ旅人」と「Last of Us」を例にあげて「つい誰かに言いたくなってしまう」物語の作り方について論じています。

この章ではナラティブという言葉が出てくるので、ゲームデザインの文脈でよく出てくる「ナラティブ性」という言葉との関連をちょっと意識しちゃいますが、実際のところ、この章で語られているのはそれとはまた別の話ですね。
具体的には、あるストーリーがあった時に、それをプレイヤーに自分事として受け取ってもらうためにはどんな工夫をすればよいか?…という話をしています。

この章で提示される物語のデザインは「翻弄する → 成長させる → 意志を持たせる」という流れとして抽象化されています。
プレイヤーを翻弄し、その過程でプレイヤーを成長させ、最後にプレイヤー自身の意志で物語の運命を切り開かせる…という感じ。
個々のステップについても細かく解説されているので、この章もなかなか参考になりましたね。


そんなわけで、非常に興味深い本でした。
もちろん、あらゆる種類のゲームに対して本書の解析手法が適用できるわけではないと思うのですが、それでも一定程度には自身のゲーム制作に活かせる部分もありそうなので、読んで良かったです。

おしまい。

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