魂(たま)散歩5.5歩目。騎士さんの人生の振り返り。
お読みいただき、ありがとうございます!
「人生に後悔はないですか?」
騎士さんにそう聞いた時に、本当にびっくりした顔をされておりました。
その質問すら「考えたことがなかった」と。
そんな彼の人生の振り返りについて一緒にお付き合いくださいね。
●騎士さんの人生の振り返りについて
「私は、生まれた時から、将来的には家から離れ、自分の力で立って歩いていくことを教えられていましたし、それに疑問を持ったことはありませんでした。生家の名前を継いでいたとしても、武勲を立てたり、何かを成し遂げると名前が変わるということも往々にしてあったので、その名前に対してどうこうしたい、という気持ちも余りありませんでした」
「長兄以外の兄たちも、妹たちも近い感覚だったと思います。私の生家はそれくらいお互いの立場がハッキリしていましたし、かと言って父親や他の大人たちから酷い差別を受ける、ということもありませんでした。ただ、淡々と『そういうものなのだ』と受け入れられる環境にあったのだと思います」
「そして、私は幸いにも兄たちのおかげで、予定よりも早く生家を離れ、自分なりの人生を考える機会に恵まれました。その殆どが一時的な借り入れという形だったとはいえ、学校で学ぶために生家には沢山の援助をしてもらいましたし、実際に(返済は父が生きている時からしておりましたが)父が亡くなった後に、長兄から『借り入れ金の残高』を見た時に、私が把握していた以上に返済が進んでいるような額を提示された時は、本当にありがたかったです」
「私は基本的にとても恵まれていた方でした。最初の入隊試験に落ちた時も、すぐに次の仕事を見つけることが出来たり、雨風をしのげるような場所を教えてもらえたり、上手く食事がもらえるような仕事や、読み書きが出来るというだけで、更に上の経理や管理の技術が身に付けられるような仕事をさせてもらえたり…」
「軍隊を同僚の代わりに離れる事になった時も、同僚とその家から実際の退職金よりも多めにお金をもらえましたし、それで生家までの道中にほんの少し贅沢な食事を楽しめたりもしました。そして、生家でも私の仕事で培ってきた技術の引き継ぎが終わったら『お払い箱』になってしまいましたが、その際の私の財産を取られたわけでもないですし、お世話になっている間は衣食住に不自由もしていませんでしたし、払われた後も雨風をしのげる場所を分けてもらうことが出来ました」
「後悔しているか?と聞かれると、特にないですが…ただ、その質問に対して感じる印象としては、私が何に対して、どんな事に対して『後悔して』欲しかったのだろうか?ということです。私はその時その時を安全に生き、平和に過ごすこと、周囲と揉めないことを信条として生きてきました。上を目指せばきりがありませんし、下を見ても底がありません。なので、その時『安全』であれば、それに勝るものはなかったのです」
「唯一、後悔に近い感情というのであれば、家族や家庭というものが『温かい場所』だという、価値観が最後までわからなかったので、ちょっとそういった自分の中の『欠けているのかもしれない』という部分が、生きている間に気付けなかった、ということくらいでしょうか」
…ということでした。
その後、騎士さんはご自身に合わせて作られた、少し大きめのロッキングチェアに深く座り、静かに目を閉じられました。
騎士さんの生きた時代は、今の時代に生きる私達から見ると
「とても理不尽なこと」に溢れていたのかもしれません。
そして、それが本当に「理不尽かどうか」と感じるための
価値観や考え方、環境といったものはそこまで多くなかった…
そういった感じが、彼の話を聞いていると伝わってきました。
今は割と「理不尽だ」と感じたら、意見や考えを表に出しやすい
そんな世の中になってきているような気がします。
でも、その「理不尽」にばかり目を向けてしまいがちな時代と
目を向けることすら出来ないけれど、結果として穏やかな時代と
どちらが、そこで暮らす人にとっての「心の有り様」としては
良いのだろう、とそんなことを考えてしまいました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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