虫めづる姫君(4)
(三)
奇妙な趣味を持つ虫めづる姫君のうわさは、だんだんと世の中に広まって行きました。噂する人のほとんどは、姫君のことを悪く言う人ばかりでした。
しかしそんな中に、ある高貴な御曹司で、虫めづる姫君を怖がらない者がいました。
「まったく、おもしろい女性がいるものだ」といって、
彼が身に着けているすばらしい帯の端っこを、たいへん上手に蛇の形に似せて、蛇の体のように動く仕掛けをし、うろこ模様の紙袋の中へ入れました。姫君宛てのお手紙も、一緒に結びつけています。
はふはふも君があたりにしたがはむ 長き心の限りなき身は
それを虫めづる姫君の女房へ、そっと渡しました。
女房は少し重い袋を持って、不思議そうです。何が入っているか不思議に思いながら開けると、中から蛇の頭が、にゅっと顔を出すではありませんか。
「キャー!蛇!」
御曹司からの贈り物に、宮中は大騒ぎです。
ただ、ひとり虫めづる姫君だけは、落ち着いて、ありがたそうに念仏を唱えていました。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
「きっと、ここにやってきたということは、わたしが現世に生まれ変わる前の、親だったのでしょう。そう御騒ぎにならないでください」
おびえる女房たちを、虫めづる姫君はやんわりとたしなめました。
毛虫を可愛がっているから、蛇なんか怖くないのかしらーー。
けれど、よく見ると、虫めづる姫君の体はか細く震えています。
「美しい間だけ、大切にかわいがるのは、不思議なことだわ」
いつものように気丈に振舞いながらも、立ったり、座ったり、落ち着かなさそうです。虫めづる姫君も、突然送られてきた蛇に怯えているのでしょう。
震えたかぼそい声で話す様子は、まるでとなりの蝶めづる姫君を思わせるのでした。
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