虫めづる姫君(5)
虫めづる姫君のいつもとは違う一面に、思わず見入ってしまう女房たち。あの奇妙な虫めづる姫君が、まるで美しく可憐な蝶めづる姫君のようにふるまうのですから、女房たちは、おかしくて仕方ありませんでした。
ついにはこらえきれなくなって、虫めづる姫君のいる部屋を飛び出し、姫君のいないところで、みんなで笑い転げました。
「ねえ、何あの様子!全く別人になったかと思ったわ」
「びっくりした!あんなに驚いてしまって、うちの虫めづる姫君も、あんなに女らしい一面があるなんて!」
のちに、あの蛇は作り物だったと分かり、女房たちは一安心。宮中には、再び平和が訪れました。
次に考えなければならないのは、お手紙のお返事です。いくら蛇が入っていたからと言って、なにもお返事を差し上げないのは、高貴な男性に対して失礼に当たります。
虫めづる姫君は、こわごわと固い、上質の立派な紙に
「契りあらば よき極楽にゆきあはむ まつはれにくし虫のすがたは」
そのようにお返事を書いて、そっと女房に渡しました。
(巻四)
虫めづる姫君に手紙を送った御曹司は、うまのすけと言いました。
彼は虫めづる姫君のお返事をご覧になって、「とても変わった手紙だなあ」と首をかしげました。手紙の用紙も、文字も、お返事も、ふつうの女性とはまるで違っています。
「やっぱりおもしろい女性だなあ。なんとかして顔を見てみたい」
うまのすけはあやしまれないよう、身分の低い女性に返送して、宮廷に近づきました。宮廷をぐるりと囲む柵の間から、姫君の召使の子どもの姿が見えます。
「姫君、この木に毛虫がたくさん歩いていますよ。とってもかわいいですよ!姫君もお屋敷の中から、覗いてみてください」
そういって召使の子どもは、簾を引き上げました。するとその中にいるのでしょう、賢そうな女性の声が聞こえてきます。
「とってもおもしろうそう!こちらにもってきて頂戴」
虫めづる姫君の声だ。うまのすけはそう確信して、更にお屋敷に体を近づけました。
「うーん、取れそうにもありません。こちらに来て、ご覧になってください」
召使がそのように言うと、宮廷の中から、若い女性が軽やかに現れました。当時の女性はたいそう重い服を着て、ゆっくりと移動したものでした。だからこそ、彼女の軽やかな足取りは、その他の大勢の女性とは、まるで違って見えました。
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