第10回 障害者雇用と合理的配慮

 今、少子化が社会的な問題となり、今後、企業における人材の確保が、ますます困難になることが予想されています。

 ダイバーシティ社会、インクルーシブデザインという言葉も様々なところで聞くようになりました。

※「障害」という表記には様々な議論(「障がい」、「障碍」など)もあるかとは思いますが、文中の表記は「障害」で統一します。

 しばらく前に、身体に重度の障害がある方が国会議員となり、議事堂をバリアフリーにするというニュースが話題になりました。

 そもそも、障害者差別禁止法を制定した立法府が納められる建物に、障害者が登院するための配慮がなされていなかったというのもおかしな話です。

 閑話休題。

 社会の流れは、多様性が認められ、それを活かす時代に来ていると言えます。

そう行った中で、障害者雇用促進法が改正され、今、多くの企業で障害者の雇用が進んでいます。

 この障害者雇用促進法には、障害者の申し出に基づき「合理的配慮」を行うことを企業に義務づけています。

 今回のコラムは、この「合理的配慮」に注目したいと思います。

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 「合理的配慮」と一口に言っても、イメージが湧きにくいところなのかもしれません。

 厚生労働省では、法に基づき「合理的配慮指針」を策定した上で、

 ・障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A
 ・自主点検資料
 ・合理的配慮試算事例集

などが、厚生労働省のホームページに掲載されています。ぜひご覧ください。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html(厚労省HP 外部リンク)

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 さて、この「合理的配慮」についていろいろ話を聴いたり、関係する書籍を調べていると、

 ・障害者の申出で「合理的配慮」を認めていたら際限がないのでは、という企業側の不安。

 ・「過重な負担がある」といわれて「合理的配慮」がなされないのでは、という障害者側の不安。

という、労使双方に不安があることが見えてきます。

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 確かに、法律では「合理的配慮」を企業に義務づけつつ、「事業主に過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りではない」と記述されています。

 そうなると、企業は費用や労力が「過重な負担」となることを理由に、「合理的配慮」を行わなくていいことになります。

 ここの曖昧さが「不安」の元となっているような気がします。

 原則的には、企業は障害者の申し出があれば「合理的配慮」をしなければなりません。義務です。

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 例えばの話をします。

 会社の建物の外が作業場になっており、日常的に騒音が発生する職場があったとします。

 Aさんには聴覚過敏があります。

 Aさんは社長に「騒音で気分が悪くなるので、一部の作業をやめるか、作業機械を変えて欲しい」

と申し出ました。

 社長はこれを聞いて、「作業は止められないから、Aさんには辞めてもらうしかない」と言いました。

 ※あくまで筆者の説明がしやすいように作成した例です。

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 はたして、Aさんは辞めなければならないのでしょうか?

 作業を止めたり、作業機械を変えたりすれば、会社に莫大な損害を生じさせます。

 これは会社にとって「過重な負担」であると考えられます。

 しかし、「合理的配慮」というのは、社員の「申出どおり」にすることではないのです。

 例えば、Aさんは普段使っているイヤーマフがありました。

 しかし、職場では他の社員の話が聞こえにくくなるので、外すことにしていました。

 「止める、辞めない」の話よりも、Aさんとよく話し合った上で、「職場でもイヤーマフをして、会話のときにだけ外す」などの配慮をすることが、幾分か「合理的」なのではないでしょうか?

 もちろん他にも対応策や考えなければならないことはたくさんあるでしょう。

 ここで重要なのは、申出の内容に隠れた「不安や困りごと」への理解です。

 これは、障害があるなしに関わらず、全ての社員に言えることです。

 家庭の事情や急な病気、もしかしたら後発的に障害をもつこととなる社員もいるかと思います。

 その状況は様々で、話を聞いてみないとわからないことがたくさんあります。

 その社員がどんなことに困っているのか、話を聴いて、一緒に考えるのが「合理的配慮」の第一歩だと筆者は考えます。

 こういった配慮を重ねることが、組織の生産性を上げることにも繋がると言われています。

 やる気が上がる、という漠然としたものだけではなく、誰もがやりやすい作業にする、誰もがわかりやすい状態にする、など、作業の効率化や人材の有効活用にも繋がると考えられています。

 まずは話を聞くこと、それから一緒に悩んで答えをだすこと、これが企業の未来を作っていくと筆者は考えています。

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