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菓子パンを食べるとき、人は一番愚かに見えるのかもしれない

最近、朝、菓子パンにハマっている。
身体づくりをしている人間として、タブーとも言える行動を取ってしまっている。

菓子パンなんて、成人してから、何度食べたであろうか・・・。
おそらく、数えるほどしか食べていない。

「あんドーナツなんて、年一ですよ」
そう格闘技のコーチに蔑むように言われたこともあり、菓子パンはかたく戒めていた。
もともと、さほどパン好きではない。

だが、一度、ハマった場合、それは飽きるまでやった方がいいのだ。
途中で我慢すると、欲求不満が募り、悪癖は長続きしてしまう。

一気にやり、一気に飽きる。
経験上、その方が害は少ない。

きっかけは「イチゴスペシャル」

きっかけは「イチゴスペシャル」だった。

甘いイチゴスペシャルには、苦い思い出がある。
僕は若い頃、コンビニを経営していたことがあった。

その時、まだ未熟者だった僕は、イチゴスペシャルを売り切れさせてしまっていた。

「別に、他のパンはたくさんあるんだから、いいだろ」

とパンにあまり思い入れのない僕は、数日だけ、しかもその時間だけイチゴスペシャルがないことをあまり重視していなかった。

毎日、売り切る完璧な発注!とすら思っていた。

すると、30代くらいの女性がレジに怒鳴り込んで来たのだった。
「イチゴスペシャルがない!」と。

話を聞いてみると、毎日、イチゴスペシャルを買っていたのだそう。
だが、ここんとこ、毎日、イチゴスペシャルがない。
それでお怒りだった。

この世に毎日、同じ菓子パンを食べている人がいるなんて、想像がつかなかった僕は、そのあまりの剣幕に驚きながらも、「欠品させない」ことを堅く誓った。

イチゴスペシャルって、そんなにすごいパンなんだ・・・。
「もしかしたら、他にも同じような人がいたのかもしれない」と僕は反省し、イチゴスペシャルを少し多めに発注した。
そもそもそれが発注の基本だ。
僕は怠っていたのだ。

結果は・・・、まあ、ある程度、予想してはいたけど、全然売れなかったね。
結構、廃棄した気がする。
あのクレームつけてきたオバサンも、絶対、買ってないわ。

まあ、これは僕が悪いのかもしれない。

「あの店はイチゴスペシャルがない」
そんな悪評は瞬く間に、この地域の「イチゴスペシャル」ファン達に広まり、他のお店に取られてしまったのかもしれない。

そんなイチゴスペシャルが特売に

そんな思い出のイチゴスペシャルだけど、数日前、たまたまスーパーで特売されていた。

コンビニをやっていたのなんて、もう何十年も前だ。
まだ生き残っているなんて、すごいパン。
ちょっとネーミングの意味は分からないけど。

思い出を頭の中に蘇らせながら、「へえ、たまには食べてみようかな」と思って手に取った。

だが、体作りをしている身にとって、菓子パンは、もっとも危険な食べ物だ。
とても健康的とは言えないし、筋肉もつかない、できれば、避けたい。

しかし、僕には葛藤があった。
それは、

  • おじいさんおばあさんの買い物カゴの中って、結構、菓子パンいっぱいだよね。なら、あまり健康に関係ないんじゃない?少なくとも毛嫌いする必要はないよね。

  • 今、スポーツして帰ってきたところだから、このくらい食べてもいいんじゃない? カーボ不足しているからね。

  • イチゴスペシャルって、ほぼケーキじゃない?ケーキだと500円超えなのに、イチゴスペシャル100円って、すごくない?

というわけで、悩んだ末、一歩踏み出し、買ってみた。

食べてみたら、どうだろうか?
ふわふわで、疲れ切った体に何の負担もかけず、入っていく。
おいしすぎず、適度においしい。
また、背徳感がなかなかしみる。

これはいいぞ。

正直、朝ご飯にタンパク質とか頑張って取ろうとしていたけど、とても食べれる気がせず、いつもコーヒーだけだったりしたから、ちょっと、菓子パンにしてみようかな・・・と思い、ハマってしまったのだった。

「あれっ、今、バカみたいじゃない?」

次の日、僕は菓子パンを食べたさに、いそいそと起きた。
「朝食が楽しみで起きる」なんてことは、今まであっただろうか?

エスプレッソをいれ、さあ、菓子パンを食べよう。
今日は、コッペパンのジャムマーガリンだ。
カロリーは450kcalくらい。タンパク質はなぜか10gくらい入っている。グルテンかな。

一口食べる。
うまい。

そのまま、もう一口、二口と食べ進んでいく。

そんなとき、僕はふと気づいた。
「今、ちょっとかなりバカみたいじゃない?」と。

目は一点を見つめながら、みじろぎもしない。
手はゆっくりとマシーンのように、自動で、口にパンを運んでいく。
その口はパンが運ばれていくまでは、「あー」と言っていそうで、パンが入ってきたら、ゆっくりとハムハムし始める。
その繰り返し。

正直、食べ終わるまで、意識がなかったような気がする。
途中で気づいただけでも、自分を褒めてやりたい気持ちだ。

妻はまだ寝ている。
だから、一人、菓子パンを食べながら、キマっている様子を想像し、ほくそ笑む。

他の人もこうなるのだろうか?なんて思う。

2日目

僕はまだ菓子パン初心者だ。
だから、経験を積めば、それなりに利口そうに食べれるようになるのかもしれない。

2日目。
今日も僕は寝ている妻を残し、菓子パンを食べに向かった。

1日目で、僕はエスプレッソは菓子パンに合わないなと気づいた。
コーヒーやカフェラテなどはいいが、エスプレッソは合わない。
パンを食べきった後に、エスプレッソだけで飲もう。

今日の菓子パンは、コッペパンのはちみつマーガリンだ。
あるところにしかない、レアなパンと言える。

もう一口食べた瞬間に、意識を失った。
気づいたら、半分くらい食べていたと思う。

その時に思ったのは、「ああ、これはホンモノだな」ということ。
菓子パンを食べると、人は馬鹿みたいになるのだ。
食べた記憶がない。

そして、それがまたいい。
一日の間、それが朝でも午後でも昼でもいい。
こうして、あまーく、おいしいものを食べながら、意識を失う時間。
これがあるとないとでは、日常に大きな違いだろう。

寝ているときですら、真剣な表情だ、と言われる僕には、もしかしたら、救いになるかもしれない。

そうか、あのイチゴスペシャルのオバサンも、買い物カゴに菓子パンを詰め込んでいたご老人も、この時間が必要だったんだな、と今更ながら思い至る。

今なら、イチゴスペシャルのオバサンのあの怒りも分かる気がする。

ああ、こう見えるのか?

そんな物思いにふけっていると、妻が起きてきたので、ジムへ向かう。
筋トレの帰り道、スーパーで、菓子パンを購入。

黄色の蒸しパンを、車の中で、妻とはんぶんこする。

その時に妻に、「ねえ、菓子パンを食べているときはさ、はたから見ると、馬鹿みたいに見えるよね」と話しかけてみた。

僕は「バカじゃないの」的なことを言われ、鼻で笑われることを予想していたが、違っていた。

妻はしばらく黙った後、こう言った。
「おにぎりとかだと、見ないといけないからね。あと、具のとことか、色々変化があるから。パンは変化もないし、見なくていいから、馬鹿みたいになるんだよ」

まさか、そんなに真面目に考えてくれるとは思わなかったが、言っていることは確かにその通りだなと思った。

その後、しばらく沈黙が続いた。
そっと横顔を伺ってみると、妻は蒸しパンを一点を見つめながら食べていた。

馬鹿みたいかな?
確かに馬鹿みたいではある。少なくとも賢さは感じない。
だが、思ったより、さほどバカみたいじゃないな。
なぜかな?

と考えてみたら、妻は、ちぎったパンの大きさと自分の口の大きさが合っていないため、口の動きに変化が生まれていた。

一口の大きさよりも、やや大きめにちぎってしまうため、口の中にねじり込む動き、そして、口を大きくあける動きが生じるため、動きに変化があるのだ。

それがさほどバカっぽく見えない理由だなと思った。
だが、見た目はバカっぽくなくても、実際のところ、どっちがバカなんだろう。

僕の場合は、的確に一口の大きさをちぎることができる。
一口が大きいということもあるだろう。
だが、それがゆえに、逆説的だが、より一層、馬鹿みたいに見えてしまう。

そんな思いを運ぶドライブだった。



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