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狐塚冬里
2016年2月22日 22:23
「お母さん、今日の朝ご飯なあに?」朝の眩しい光を浴びた娘の髪に、きれいな天使の輪ができていた。それをなんとはなしに見つめながら、「あじの開きよ」と口が勝手に動く。──お母さん。そう自分が呼ばれるようになって、どれくらい経っただろう。実家を出てからもう十年以上が経ち、今の主人と一緒になってからは八年。娘ももう七歳になる。女の子は口が達者だというけれど、うちの子もその例に漏れず随分
2015年6月15日 05:47
朝早く目覚めて、窓を開けると涼やかな風が頬を撫でた。六月でも朝はまだ涼しく、心地よい。朝日をもう少し浴びようと外の景色を眺めていて、ある一点で目がとまる。そこにあるのはもちろんいつもと変わらない景色のはずだった。けれどぽつん、と胸の中に何かが落ちる。『実は、引っ越すことになったんですよ』穏やかな顔で笑う初老の男性。つい昨日まで、我が家のご近所に住んでいた人だ。私の家から、その人の家は