舞台 チャイメリカ 初日感想

チャイメリカ 初日観劇 感想
文章中、敬称略。


以下、ストーリーの重要な部分についてネタあかししているので、これから観劇される方はご注意を!



見る角度や立場が変われば物事の見え方も変わる。
最近よく考えていたこのことと、チャイメリカの切り口がリンクしていてハッとした。
山場のひとつは、戦車男だと思って探していた男の名が、実は戦車の中の兵士だったというシーン。

そのシーンよりも以前に、戦車男がヂャンリンだということは多くの観客はすでに(恐らく)察しがついている。
ヂャンリンの兄であるヂャンウェイ。そして兵士の兄を、眞島秀和が二役演じることで、観客のミスリードをさらに誘う作りになっていた。
観客は(私は)こちらの視点もまた偏っていたのだと突きつけられたのではないかと思う(少なくとも私はそうだった)
なるほどそう来たかと。

そして、ヂャンリンが紙袋と白い袋を両手にさげて、戦車の前へと歩いていく場面で、
実際の写真であったタンクマンと、カークウッドが生み出したフィクションが写し絵のように重なる。
その圧倒的な光景に、カタルシスを感じた。

世間一般の呑気な人々の関心事は、戦車男の袋の中はなんだったのか?ということ。

(2019.2.11追加。ここの部分は考え方が変わりました。世間一般の呑気な人々の関心ごとなどでは決してなく、この袋の中身について考えない、想像しないことこそが、ジョーが「見えていなかった」ことではないかと思います。)


序盤からきっと重要なキーワードになるのであろうと思われたその中身は、想像以上に残酷なものだった。

ヂャンリンとその妻は当時デモに参加し、ハンストまでしてその活動にのめり込んだが、戯曲ではその活動の細かい内容や現在での歴史的成果は掘り下げられていない。
ただあの事件後の中国が、体制を維持したままで急激な経済発展を遂げ、アメリカと渡り合う様、発展の陰で大きな問題となっている大気汚染、あの事件について発言することも憚れる言論統制、情報統制についてはテーマのひとつになっている。

ではあの事件はなんだったのか?
それについて答えを探したい時に、ツイッターでもよく「チャイメリカの予習に最適」だと評判だった「8964」ではないかと思う。予習というよりは復習にぴったりかもしれない。

大きな事故や災害が起こった際によく聞く、「三万人が亡くなったひとつの事故じゃなくて、一人が亡くなった三万件の事故だ」という主旨の言葉を思い出した。

犠牲者は300人とも、数万人とも言われるあの事件は、数万人が惨殺されたひとつの事件ではなく、一人が惨殺された数万件の事件なのだと。
それぞれの立場から見た、あの事件がある。
政治的な事件であると特に、視点がマクロになりがちで、個々の人生に残したものまで考えが行き届かなくなる事がある。

ジョーは、あの写真を西側諸国からの視点で見ていた。
体制に立ち向かうヒーローであると疑わずに。
そして中国当局は、あの写真を利用した。
あの写真に写っていた当事者たちの人生は、ひとつひとつがかけがえのない人生で、彼らのそれはあの瞬間に一変した。そしてその瞬間が切り取られ、世界中に拡まった。

一見自己中心的で浅はかに感じるジョーは、多くの世間一般の目を登場人物として表したのではないかと思う。
言ってみれば狂言回し的な役割で、そのためにはジョーはある意味浅はかでなくてはならない。
戯曲の持つテーマを十分に理解しながら、浅はかであるが故に周りを巻き込み、物語を動かしていく、ある意味観客とも近い目線の主人公を魂を込めて演じるというのは、なかなかに難しいのではないかと思う。

語弊があるかもしれないが、ヂャンリンは観る側にとって感情移入しやすい人物だと思う。演じる側にとっては演じ甲斐のある人物だろう。実際にヂャンリンを演じた満島真之介は圧巻の芝居だった。
中国側の人物はどれも分かりやすい。感情の爆発も分かりやすい。見る方もどんどんのめり込む。
一方ジョーにあるのは、好奇心と、浅はかな使命感と、戸惑いと後悔。観客の共感も得難いのではないかと思う。
これから先、何度か観劇させて頂く機会に恵まれている「チャイメリカ」
今後は、ジョーをはじめ、西側諸国の人物に注目したいと思う。

同じ原作者で、演出も同じ栗山さんの作品、チルドレンも録画にて観る機会を得た。
こちらもたくさんの普遍的なテーマが散りばめられていた。
もし原発事故が起こったら、人はどう生きるのか?
もちろんシチュエーションとしてだけではなく、原発について投げかけたい問いもあるだろうとは思う。ただ主軸はそこではなく、あくまでも一人一人の人間の人生を考える戯曲なのだろうと私は感じた。
両作品とも、決して難しい社会派作品ではなく、個人の人生そのものが社会なのだろうから。

また思いついたら追加していく。

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