詩「待合列車」
俺たちの生きる世界にはある都市伝説が存在するのさ
ある日、相方が怪我を負ったとか
ある日、相方が病気に罹ったとか
ある日、相方が罪を犯したとか
ある日、相方が粗相をしでかしたとか
ある日、相方が新天地で頑張ろうと決意したとか
ある日、相方が新しい命を授かったとか
それらは全て例だけど、この世界に取り残される時が来る
まだ別れを決めず、膠着状態を選択する時
とある列車の乗車券を手渡されて案内されるんだぜ
その名は
「待合列車」
俺にもその番が回って来た
噂には聞いていた都市伝説
嘘だか本当だかどちら側にも着かなかったけど
かつてそれに乗車した体験談を語った仲間
彼がどこか浮かない顔だったのを思い出した
乗車券に書かれた駅へ迷子にならず辿り着く
初めて知った見たことのない駅はどこか時代錯誤の芸術作品なんだ
ロマンもモダンもレトロもポップも入り乱れ混沌として
誰もいない構内であっという間に改札口を通り抜け
構内とは裏腹に寂しげな無人のホームさ
そうこうしている内にやって来たぜ
無人運転で黒塗りのあの普通列車は
「待合列車」
この列車に乗ったら最後
乗車券にいつの間にか印字された日付まで降りられず
駅名は必ず日付になっており
どこかのホームには誰かを待たせた相方が帰って来て再生の一歩
或いはそこに誰も来ず永遠の決別が降車方法
先に乗車していた先輩から詳しく教えもらった
先輩は俺を心配そうに見つめていたけど
俺はいつかこの日が来ると受け入れたからそうでもないのよ
不思議なことにホームは真っ昼間なのに
列車が走行する時は必ず真夜中なんだ
列車だけにあらゆる駅で停車するけど
今のところ誰もいないのは乗客の誰かを迎えに来た訳では無いから
この孤独感が
「待合列車」
「待つことは時が止まったと感じるのは主観的な考えで、客観的に見れば時間は残酷にもどんどん過ぎ去るから取り残された俺たちは皆この列車に乗らなきゃいけないのですね。」
「…そうやな。」
この列車に乗っているが実の所変わらない日々を過ごしている
朝は起きて、昼から夜に掛けて仕事
そして、何時に寝つけられるのか分からない日もある
ならば夢かと思いきや
あの駅に訪れた記憶が残って
今も列車から降りられないのにここにいる
意識の半分をそこに飛ばしたのだろうか
真相はどうなんだろうか
現実と幻想の間に生きる俺たち
今日も無人の列車で鳴り響くアナウンス
何が動力源なのか分からない
「待合列車」
都会の片隅にあるカオスそのものを体現した無人駅
人知れずどこかで運行中の残酷な時の無人列車
普段は悲しげな顔で乗車する人が多いけど
俺はふてぶてしく乗り込んだ
先発の乗客と会話するのは楽しいのさ
後発の乗客を励ますのも穏やかになるものだ
でも、この列車の存在は俺たちの世界だけで留めなければならない
そうでなければ、列車は脱線するらしい
列車生活はこの先どうなるんだ
それでも、
それでも、
それでも、
俺を置いていった相方がホームにやって来るのは期待する
それまで乗車してやろう
「待合列車」