とっちゃんの四季。イカ売り
おばちゃんが港で採れたばかりのイカを
「イガイガ、イガイガ」
と言って売りに来る。イカ売りのおばちゃんは船から降ろしたばかりのを現金で仕入れるから、イカは透明、墨吐くやつもいる。トロ箱のままリヤカーに積んで港町を南へ向かう。
「イガ、イガイガ」
イカが上がる日はみんな知ってる、かあさん待ちかねて道で待つ。かあさんが買いに出るのは、イカを見たいからだ。大きさとか色とか。
かあさんはいつも、多めに買う。住宅までの上り坂、ガッと上がってくる。
「みちこー、ちょっとおばさんち行って」
とねえさんに声をかけて隣のおばさんに届けさせる。おばさんは刺身だけじゃなく、煮付けにしたり、酢にしたりするから多少多くても喜んでくれる。
うちの分は、時間がかかる煮物用を最初に用意。筒に切ってザルに入れて水を切る。かあさんはサトイモが好きだから、サトイモあるときは合わせるけど、北海道ではちょっと贅沢、豆や大根と炊き合わせることが多い。昨日茹でて置いたジャガイモと合わすこともある。すぐ炊かさるから、火を止めて味を含める。
手早く刺身(イカソウメン)にして大皿に盛ってだす。
朝取りの青菜を湯がく。昆布の炊いたんを合わせたら一品。
煮しめはいつもストーブの上。ストーブは夏でも火が入っていること多し。そうしてみると、昔は寒かったんだなぁ。
朝飯ができたらみち姉が声をかけて外仕事してたとうさんとかも入って来て食べはじめる。
かあさんの仕事はまだ終わらない。イカは箱買いだから、なかなかに手強い。刺身のイカは透明だが、箱の中のイカは、だんだん、色が変わってくる。
今朝食べる分以外は板に干してしまう。
外に出たら、隣のおばさんも干していた。
「かあさん、ありがとうね、おこわ炊けたから取りに来なさい」
「おばさん、おばさんのはおいしいからね、ご飯終わったら行くわぁ」
港の方から風がふいて、潮の香りが届く。
裏の線路がびぃいんとなって、電車が来る気配。