『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選(シェルドン・テイテルバウム&エマヌエル・ロテム 編/中村融 他 訳/竹書房文庫)』、読了。
サイエンス本書評家の冬木糸一さん(※たしか、noteにも、アカウントをお持ちだったはず)が、紹介されていて、興味を持った、一冊です。
・どのような本なのか?(※訳者(代表)あとがき、より)
>版元はアメリカのコネティカット州シムズベリーを拠点とする出版社。つまり、イスラエル人の編者たちが、イスラエルSFの精髄を世に知らしめるために英語版の本を編み、アメリカの出版社から刊行したわけだ。
・想像していた通りだった点、そうではなかった点
タイトルに、”シオン”と入っているように、ユダヤ教の教えが、物語の素材やテーマとして用いられていたことは、読み始める前の予想の通りでした。
異なっていたのは、LGBT+Qなどが主題の作品もあったこと、でした。
どこの地域にもおられることは当たり前であっても、ユダヤ教の教えそのものが”国”の存在意義となっている国で、作品として発表があったことは、俺にとっては、意外だったのです。
(※SFへの、「女の子の読み物ではない」という偏見が、あったことは、日米とも共通していて、嗤ってしまいました)
・どのようなジャンルの小説が掲載されているのか
本書の中では、”スペキュレイティブ・フィクション”という、懐かしい言葉が用いられていましたが、俺個人の実感では、”中間小説”が多かったかな、という印象でした。
つまり、”〇〇SF”というよりは、”SFにも登場するガジェットを用いた小説”のように、受け止めた、ということになります。
・作品例
『星々の狩人(ナファ・セメル)』:
すべての星の光が消えた夜に生まれた子供の、一人称視点で語られる物語。
世界的には、科学者たちが、再び星が見られる手段を研究したり、あるいは、もう見られないのだから、星を崇める回顧主義は止めようとデモを起こす人々がいたりしますが、語り手にとっては、家族との関わりが、”星”をどう定義するのか、を、定める基準になっている、そんなストーリーでした。
・まとめ
我々、日本語話者にとっては、些細な差異も、新鮮な驚きになるので、そこがまず、愉しめます。と同時に、登場人物の小さなズルさ、あきらめの悪さ、といった、日本に住む人も同じように持ち合わせる特徴に、人間の普遍さを感じる、そんな面白さもありました。
相違点と共通点、そういう視点で読んでも、面白い本だと、そう思えるので、お薦めしておきます。
(まえがき、より)
>聖書の語る物語は「ヨブ記」だけではない。じつは、全編に物語が満ちているのだ。