大失敗も大成功も味わい尽くそう(6)
2班のみそ汁が同じ鍋の3分の1ほどのかさだったのだが、
こちら一般のみそ汁は持ち手のギリギリに近いところまで水が入っている。
「これ・・・あんちゃん、まなさん、そうくん、みんなでじゃなくて、一人が6杯ずつ入れたんじゃない?」
あゆ先生は後ろで、こらえきれずに笑いだした。
「あ・・・あの・・・包丁の順番待ちの間に何かやっとける事あったらと思って、僕入れました。」
「わたしも、、、。」
「僕は、話が聞こえてきてすぐやっとこうと思って…。」
三人とも、やらかしたことに気付いたのか、しょんぼり返事をする。
「うん、そっか、それならあれだ。この鍋は6杯×3人の仕事で18人分の水の量になって、味噌と出汁は3分の一に薄まっちゃってたわけだ。」
もう、ちょっとどうするの、1班のメンバーは困り顔。
「作ったものは全部食べる、だから、残すわけにはいかないからね。さてどうしたものか。」
あゆ先生が残った味噌をもってきてくれて、
「残りもちょっとだからあんまり濃くならないかもしれないけど、入れないよりはましでしょ。もう一回味噌漉ししよっか。」
そうして味の調整をして、何とかみそ汁・・・かな?
くらいの味になったところに、仲良しさんクラス2組の担任のS先生が、
様子を見に来てくれた。
「みんなうまくできてる?」
僕は今年から担任だが、S先生は、同じ仲良しさんクラスの子どもとして、
この子達を4年間一緒に支えてくれた存在だ。
「それが・・・みそ汁失敗しちゃいました。」
まなさんが悲しそうにこたえると、S先生「私にも味見させて。」と一口。
「すごく美味しい。出汁の味も味噌の味もこのくらいが、健康的にも、濃さ的にも一番美味しく感じるわ。」
そう言って、にっこり笑ってくれた。そして、これだけあるなら、
職員室の先生と交流学級の先生にも食べてもらったらいいよ、
との素敵な提案まで、子ども達にアドバイスしてくださったのだった。
かくして、このたっぷり薄味みそ汁は、
予定していた管理職の先生だけでなく職員室の担任外の先生方と、
交流学級の先生方にも味見してもらって、
結果として、健康を気にする大人から大好評をもらうことになって、
1班の子達の落ち込んだ失敗と思った経験も、
思わぬ棚からぼた餅効果で、全部売り切れたのだった。
子ども達はというと、これはこれで出汁の味がしっかり出て美味しいと、
うまみに敏感な舌の感覚を楽しんで、
美味しくみんなで味わうことができたのだった。