初めての田植えが、大イベントになっちゃった(2)
教科書に載っている農家の学習は、米農家の仕事について、まとめてあるもので、
その中に、米農家さんの願いなどを考えやすいように書いてある。
とはいえ、淡々と進めることが出来る学習では、
子ども達はその仕事についての想像の幅も広がらない。
百聞は一見に如かずだなと、僕は感じていた。
そこで、5の3より前に受け持った子ども達の時から使っていた、
「プロフェッショナル・仕事の流儀」のDVDのシリーズの中にある、
米農家さんの回を、一度通しで視聴させることを、学習の計画の中に入れることにした。
その米農家さんは、いわゆる有機無農薬稲作の方で、田植えの後稲の成長が進む間、
何回も何回も、自作の雑草取り熊手を、ロープで腰に巻き付けて、
グラウンド整備のローラー掛けのように引っぱる。
水に浮かんでくる雑草の芽を、農家さんが日中だけ話している合鴨たちが、
稲の間を泳ぎながらついばんでいく。
そういったことを梅雨時期から秋の頃まで、何度も何度も繰り返して、
ようやく実ったお米も、いざ稲刈りという直前が、台風シーズンで、
どのタイミングで稲を刈るか、その見極めと決断を追っかけるという内容だった。
子ども達には、すでに田植えのことは告知してあるので、
子ども達は非日常的なイベントがあるという感じで盛り上がっていたのだけれど、
自分たちが体験する田植えの後、稲刈りまでは一度も足を運ばなくていいらしいという状況で、
ただ植えただけでは稲まで育つことは無いんだと言う事を、
記憶の中に持っていてほしいという願いもあった。
番組で出てきた米農家さんは、何度もうまくいかず、周りの農家仲間にも愛想をつかされ、
借金がかさむ中で、野草を食べながら生活していた時期もあったと。
それでも、美味しいお米を作るぞという信念の中で、挑戦し続けた結果、
90年代にあった、全国的な大不作の年に、その農家さんのお米だけは、
過去最高の大豊作になり、お米がなくなってしまった問屋さんから、
注文が殺到。そしてそのお米を食べた方から、
これまで食べていたお米とは味が全然違うと、リピーターが一気に増えて、
今では、毎年作ったお米がしっかり完売するまでになったという。
優しい笑顔で毎朝稲に声をかける、その方の仕事ぶりに、
子ども達は、ただただじっと画面を見つめて、米農家さんとはどんな仕事なのかを、学習しているようだった。
視聴し終えると、「先生、あの農家さんの作ったお米、一度でいいから食べてみたくなった。」
と、気持ちを伝えてくる子や、
「じゃあ、私たちが田植えした後は、あの草取りや、水の調整を、自分の収穫にならないのにしてくれるんですか?ありがたすぎる。」
と、田んぼを提供してくださった地域のOBさんへ、
ありがたいという気持ちを言葉にしている子もいた。
米作りの中の田植えだけをイベントだけで楽しむのではなく、
そういった気持ちが少しでも残ればいいなと思っての視聴は、
こちらが考えていたよりずっと、子ども達の心に残ってくれたようだった。