「ヘンゼルとグレーテル」- ヒーローズジャーニーの視点から



今日はジョセフ キャンベルによるヒーローズ ジャーニー (Hero's Journey)セオリーの視点から物語をみてみたいと思います。

はじめに、キャンベルの『ヒーローズ ジャーニー』は、ユング理論を物語の展開パターンに当てはめたものです。

ヘンゼルは継母の計画を盗み聞きした時点で彼女を殺しておけば、あるいは、話し合いを持ちかけ交渉に成功していれば、魔女を殺すことで継母のいない家に帰る、という辛い旅をせずにすんだものの、とうっかり思ったりするのですが、旅に出て様々な経験をし、Egoも確立され、直感力、思考力、実行力、コミュニケーション力、など魔女を騙しやっつけるために必要な能力を得ていたからこそなせた技であるともいえます。

キャンベルは無数の神話や物語を研究し、主人公の旅路を12ステージにパターン化し、主人公の成長と変革のプロセスを理解する手助けする手段を提唱しました。今では、キャンベルの理論は、様々な分野で研究され利用され、例えば映画脚本制作などにも大きな影響をもたらしています。

この12の局面(暫定的に上記の日本語の図を使っています)をヘンゼルとグレーテルに当てはめると、、、
1日常の世界:4人家族の暮らし
2冒険への誘い:森に捨てられ帰路を見失う
3誘いへの拒絶:石やパン屑を使った捨てられることへ抵抗するための努力
4賢者との出会い:旅によりそう鳥(賢者)との出会い
5境界の越境:お菓子の家を食べ始める 
6敵、味方との出会い:魔女との出会い
7最も深い洞窟:囚人となったお菓子の家
8厳しい試練:魔女との対決、
9報酬:勝利、自由、魔女の宝石
10引き返す:家路、川を渡る
11復活:父との生活の復活。
12霊薬を携えての帰還:知恵、経験、と宝石による物質的な豊かさを齎す霊薬。

ヘンゼルとグレーテルは日常世界(Everyday world)を無邪気に生きています。家族が飢餓に脅かされている、問題に直面していることを知らないのです。継母と父の話を聞いたことで、この生活が続かないのだ、ということを知ります。森へ強制的に捨てられ、自分達のみでの冒険(Journey)が始まる、その誘い(Call  to adventure)を受けますが、親の庇護のもと生きる子どもであり続けるため、誘いを拒絶(Refusal of call)し、石やパンを使って帰宅しますが、継母によって、その道も断たれてしまいます(First THreshhold)。森をさまよい(Roads of trial)、”帰る”ことをあきらめたら、森の空も地面も知っている鳥という賢者(Helper/Mentor)に出会い、信頼します。導かれたのは魔女の家で、そこにあるものを口にすることで、越境(Crossing threshold)、元の世界へ戻れなくなることが確実になります。(あちらの世界の食べ物を口にすると、こちらの世界への帰還が難しくなる、というパターンは様々な物語で語られています。

アダムとイブが蛇に唆されて林檎を食べ天国を追放される。へデスに誘拐されたペルセフォネが冥界で木の実を食べてしまったので、母デメテルの訴えとゼウスの采配を持ってでも一年の半分しか、地上では生活できない。イザナキが御世の国の物を食べ悍ましい姿になった。夫であるイザナミが迎えに来ても、禁を犯してたいまつでその姿を闇から映し出し見てしまい、怒ってイザナキは地上には帰ってきませんでした。)

お菓子を食べている(Temptation)と魔女である敵と出会います。脱出不可能そうなお菓子の家、という最も深い洞窟(Abyss)に囚われ、デッドエンドな生死をかけた戦い、厳しい試練が始まります。他に助けてくれるものはいません。信頼できるのはここまでの旅路を潜り抜けてきた自分、戦いながらスキルアップしていく自分(Transformation)、だけです。機転をきかせて魔女を殺し勝利(Revelation/Apotheosis)と宝石、自由、という報酬(Gift of goddess)を手に入れます。そして、家へと引き返し(Return)ます。引き返す道のりも簡単なものではありません。急な坂道を降るのにもスキルがいるように、見知った土地でも、旅にでて経験を積むまでの自分とは違う自分がどうフィットインするのか、容易ではない課題とむかいあいます。

やっと父親と家で合流し、父との繋がりが復活(Atonement)します。宝石などが象徴的に表す、子どもたちの中で生まれ育った強さという霊薬を携えた帰還(Return - Everyday life)は、これからの生き方、彼らの世界を作っていく基盤となります。おそらく、’木こり”という、無意識の世界(森)に入り、森(無意識)に飲まれる生活ではなく、彼らの知恵、機転、直感、忍耐力、諦めない力、などを使って新しい世界を築いていく可能性を想像することができます。

私たちは生きていく中で、心の飢えを感じた時、どうやってそれを満たしているのでしょうか?

カウンセリング@代々木上原・音楽療法・心理療法 GIM 音楽療法士(GIM)のつれづれ totoatsuko.exblog.jp 


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