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「戦争と平和」 6️⃣ エピローグ 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文
「戦争と平和」六巻 エピローグ 第一篇 第二篇 トルストイ 感想文
今こうしているに時にも、爆撃されている国で、苦しむ人々がいるという現実に心痛む日々が続いている。
まさに撃ち込むその瞬間、「これは何のためなのか?」と問い続ける人々が必ずいるはずだ。
「行為が私だけにかかわるものなら、すぐにその行為を行うことも、行わないこともできる」 (岩波文庫、六巻 p.475.476)
前線に立った時、連隊の動きに従わずにはいられない、みんなが逃げると逃げずにはいられない、と作者は書いている。
束縛からは逃れられない。きっと自らを責め続けるだろう。
兵器を前にして、その葛藤に苦しむ姿を思い浮かべるだけで悲しくなる。
自分が放った弾で誰かが死ぬのだと。
「戦争に行った者ならだれでも、これがどれほど間違っているか知っている」 (p.468)
引用はじめ
「我々の行為が抽象的であればあるほど、したがって、他人の行為との結びつきが少なければ少ないほどそれは自由であり、逆に我々の行為が他人と結びついていればいるほど、不自由だということを認めずにはいられない。最も強く、切り離せない、重苦しい不断の他人とのむすびつきは、他人に対する権力と呼ばれるものに他ならず、それは真の意味では、他人に最もおおく束縛されることにほかならない」 (p.476)
引用終わり
作中の多くの事件や個人の出来事に対する裏付けのような言葉だった。
せめて生命の尊厳を守れる自由さえ残されていれば。
主人公のピエールが、最愛のナターシャと結婚、マリアも心に秘めていたニコライと結婚するという、私の心に思い描いていた「まとめ」のようなエピローグだった。
妻マリアの領地を売らずに、没落したロストフ家を立て直したニコライ。賭博で父に迷惑をかけた頃とは違う彼の生き抜く一貫した強い力と気質に驚き、以前のニコライには感じられなかった骨太の骨格を感じた。
領地の改善、百姓に対して義務を果たし、そして静かに百姓を愛した。
神が彼に用意した道だったのかもしれない。
信仰に生きるマリアと現実主義のニコライに時々亀裂が入ってしまう。互いに違う世界を受け入れ理解する学びの場が家庭なのだと、このカップルの課せられた意味を感ぜずにはいられなかった。
「他の行為との結びつき」、結婚は自由が束縛されることであることは拭えない。幸福と不自由さを受け入れることの大切さは理解できる。
マリアはもしかしたら、信仰の世界、神との関係の方に自由を感じていたのかもしれない。
「彼女が味わっている幸福以外に、この世の人生では得られない、別の幸福」(p.313)、をマリアはふと思って、悲しくなるシーンがとても気になり先行きを暗示させた。
ピエールはニコライの義弟となり、マリアの甥であるニコーレンカの、義理の叔父がニコライとなる。
思想に取り付かれているピエールと思想は遊びというニコライの微かな対立、更に叔父ニコライよりピエールを尊敬しているニコーレンカという存在の難しさと複雑さ。
お互いを理解しなければならないこの修行の場ような親戚関係の厄介さから逃れられないのが現実なのだ。
ピエールもナターシャも同じ不自由さを感じていた。社交界には全く興味のない二人の共通点、ややロストフ家の思考を持っているナターシャもピェールを尊敬し理解しようと懸命に彼を満足させようとする。
彼もまた別な意味での自由を失ったのだが、「家族」の中ではすべて満足している様子が伝わってきて、読んでいてこちらまで嬉しくなってしまった。
もう無駄なものは全て拭い去った二人。
六巻を読み終えて、感動の場面が多すぎて一言ではとても語れないのだ。それぞれのシーンが映像のように甦って来た。
小さい頃のナターシャのロシア魂の宿るダンス、ボルコンスキー老公爵の怒り、ロストフ伯爵の人の良い顔、デニーソフの広島弁、ボロジノ戦で場違いな白い帽子で現れたピエール、ナターシャとアンドレイの再会、アンドレイの死に際の顔、ニコライがわけもわからずマリアを救うシーン、そして、プラトン・カラターエフの幸せそうな顔。
これから私の生きていくその度ごとに、それらの人物達のその時の心理や行動を思い出し、納得したり批判したりする瞬間が来るのだろうと思う。その経験は確実に私の人生を豊かにしてくれるだろうと感じている。
そこまで私の心に「戦争と平和」は根付いてしまった。
「私は進行している歴史上の事件の原因は、われわれの理性の理解の及ぶものではないことが明らかだと悟った」(岩波文庫 p.472)
この言葉が強く残っている。
「平和」であることのすばらしさ、尊さを改めて強く思い、深く考える時を持つことが出来た。
今、目の前に付箋だらけの六冊の文庫本を並べ、幸せを噛みしめています。
諦めずに、このような膨大な小説に取り組んで良かったと思ってます。
皆様と一緒に読ませていただいたことがとても嬉しくて。