
【短編小説】ランチはおいしくたべましょう
「ねえ。真琴。うちの課長ってさ。いつも下に蘊蓄垂れるんだけど、なんかイラっと来るよね」
和美がランチについてきたパンを引きちぎって口に入れた。
「そうね。そんなこと知ってるって思うことも多いしね」
そう言って、真琴は、アラビアータのパスタを巻いたフォークを口に入れた。
「まあ、確かに言い方も嫌味なんだよな」
ハンバーグをナイフとフォークで切りながら敏夫が言った。
「私の企画書に、変な難癖つけてきてさ。あーむかつく」
そう言って和美は、ビーフシチューの牛肉をフォークをつきたてそのままかぶりついた。
「ちょっと、和美。食べ方」
真琴は、パスタを巻こうとしたフォークを止め、和美に言った。
「ふん。そうだ、課長みたいに男が女に求めてもないのに上から目線でウンチク垂れるのって、マンスプレイングっていうんでしょ?それで、苦情窓口に訴えてやろうかしら」
「なにそれ。俺知らないよ」
敏夫がライスが盛られた皿を左手で持ち上げ、フォークでライスをかきこんでいる。
「え?しらないの?ネットで話題になってるじゃん」
「へえ。俺、ネットあんまり見ないからな」
「いろんな情報が毎日生まれてるんだからアンテナ張っておかないと取り残されるよ」
和美の怒りの矛先が敏夫に向かう。
「そうか?」
「そうよ」
「ちょっと、和美。敏夫に八つ当たりしてどうするの」
真琴は、和美に冷たい視線を向けた。
「な、何よ。あんたたちだから、こんなこと言えるのよ。少しくらい言わせてよ・・・」
和美の勢いが消えた。和美はどうにも真琴に弱い。
「なあ、さっき和美が言っていた、マンス・・・」
空気を読まない敏夫を真琴が呆れたように見つめた。
「マンスプレイングよ」
「ああ、それ。使えるかも。俺も課長によく言われるからな」
「あんたは男だからだめよ」
和美が即否定する。
「えー。それ、おかしくね?」
「おかしくないわよ。女が男から被害を受けることが圧倒的に多いんだから、その被害を明らかにするために被害の性格ごとに言語化するんじゃないの。あんたへの課長のダメ出しは、同じ男なんだら自分でなんとかするのよ」
「今は、男が部下ってこともあたりまえにあるじゃん。だったら、女が男に上から蘊蓄たれることもあるだろ」
「女はそんなことしないわ」
「なんだよそれ」
「あーはいはい。わかったわかった。二人とももう終わり。せっかくのランチなのにポリコレやらジェンダーで喧嘩するのやめて。聞きたくないわ!」
真琴が周りを気にしながら二人を睨んだ。
「あ、ごめん」
和美が小さな声で謝り、下を向いた。
「あ、すまん。ただ、なんか納得できないんだよな。なんで男ばっかり・・・」
「敏夫。あんたしつこいよ」
「いや、だってさ・・・」
「あんた、それ以上続けると、ハラスメントだからね!」
「真琴、おまえもかよ・・・」
(終わり)