医療現場の行動経済学・すれ違う医者と患者【大竹文雄・平井啓】
今週の頭から神戸に出張に行っていたのだが、KindleだけでなくPCまで忘れてくるという失態。神戸空港に到着したのは朝の7時台で、待ち合わせは10時、それまでの間の時間つぶしとして神戸空港内の書店で購入したのがこの本。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07FCV2KZD
結論から言うと、すべての日本人に、今やっていることを直ちに中断して読んでほしいと思えるような本である。もう少しいうと、確かにちょっとアカデミックな内容ではあるのだが、それでも非常にわかりやすく書かれており、少なくとも大学卒であれば読めるはず。
なぜ「医療現場」という、一見狭い分野の専門書(というよりも入門書という位置づけのほうが良いか)を多くの人に読むように勧めているかというと、それは世の中のほとんどの人は人生のどこかの時点で「患者」または「患者の家族」という人になり、おそらく死を迎える前の一定期間はその問題に掛かり切りにならなければならないからである。我々は普段、なぜなのかはわからないが「死」を意識しないで生きてゆくことが多いと感じるが、「死」は否応なく、いつか私たちをその手に捉えるのである。その時に、我々は比較的短い時間の中で、自分のためだけでなくあとに残す家族のためにも重要な決断を下さなければならない。我々は、平時から「来るべきその日」のためによく準備をしていなければならないのではないか、というのが、この書籍のキーメッセージである。
遺族A「何となく家族の総意で、延命治療は嫌だったのです。だけど、実際に治療をやめてバタバタと亡くなってみると、本当にこれで良かったのか、わからなくなります(後略)」
遺族B「あのときは、状況の変化に対応することで精一杯で、自分たちで考えるってことはほとんどしなかったんですよね。言われるがままに、流されて(後略)」
著者は、こういうケースを取り上げつつ、行動経済学における重要な概念である「ヒューリスティック」「ナッジ」「バイアス」などについて、わかりやすく説明している。この分野の本もいくつか読んでいるが、これくらいの良書も珍しいと思う。是非、手に取ってみてください。