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2019年10月の記事一覧

詩 324

詩 324

  メニーナス

種のつまった空は消え
全部が大地 きれいな手
夜間飛行の記録さえ
色彩 伝えるものはなく

となりの部屋のあの子には
見せられないから かわいそう
まどろみ 蛇行 乳母車
電気を流して あたためて

かわいた ぬけがら その背中
足をそろえて 飛びこんで
心を痛める あなたは幸運

泣いても だめだと ことわられ
するどく とがった 道しるべ
視線 浄化して あなたはいらない

詩 323

詩 323

  遠い国

姿 あらわす 夜の道
臙脂の木の下 八つ裂きで
余白の奇跡 みちびかれ
象牙 シナモン 殻のなか

斜面はとぎれ 見おろした
プリズム むしばむ 蜃気楼
葉脈 たどって 風 ふるえ
歓喜の景色 うばいとる

影踏みしながら追いかけて
砂糖とバターに溶けこんで
はだしのままで目がさめるとき

テントは 気球は 燃えあがり
しきつめるなら 瑠璃ガラス
傷が光って カクレクマノミ

詩 322

詩 322

  ソーマインビジブル

絹のロープはちぎれそう
おおいかぶせる 光の輪
半円形に やつれはて
花火は 無力で 風に飢え

蜂蜜 硫黄 ふさぎこむ
オレンジの皮 くすぐって
無垢があなたを守るから
夕日 脱ぎ捨て 偽音叉

氷の上で不幸なら
すぐに 黒羅紗 はがね 織り
福音 左手 設計図 引く

腕 ふりまわし そそぐ 美酒
どんなに 研究 すすんでも
寄りかかるのは 花咲く 大樹

詩 321

詩 321

  完全隔離

心 ふるえて 模写の夢
見わたすかぎり 青い霧
息を吹きかけ 泡 珊瑚
肌 かぐわしく 愛 あふれ

袖 引く 夜のうつくしさ
深く しずかに 身をささげ
むすぶとしたら 歩道橋
明暗 分けられ 胸さわぎ

受け入れられた マッチ棒
結末 おとずれ おとなしく
席を立つには勇気がたりず

従順すぎて わがままで
さみしく ちいさな痕跡に
ノコギリ あてて それから あなたは

詩 320

詩 320

  花売り

オレンジの木に 声 まだら
塀の下では 水たまり
散歩の途中で日が落ちて
もう帰れない 水銀灯

いとすぎ 編んで 屋根をかけ
朝は わたあめ なめるでしょう
しゃがんで カエルをつかまえて
自分の光で影は濃く

どうせ 明日も浴槽で
栽培される運命で
それなら いっそ 空白 このまま

るつぼ 飛びでた 太陽の
目は憂鬱で 雲 おぼろ
手をのばすには確信がない

詩 319

詩 319

  バルーンキャッスル

かなしいけれど空洞で
証拠 ほしがる 化学の子
みみずく 抱いて 赤ワイン
あなたのきらいな遠近法

気に入られようと努力して
神さま ふらせた シャーベット
舌には苦い 目に みどり
あなたは笑って まわれ右

依存の日々を忘れずに
上へ 下へと ふりまわす
のぞんだこたえ ポケットのなか

ダイスは退屈 火をやどす
夜のかたまり 蜃気楼
早起きしたら みんなを照らす

詩 318

詩 318

  自家誘惑

わたしのつくった影を踏み
空間 エコー 生まれかけ
鉄橋 かけて たどりつく
針金 どしゃぶり 谷の底

うしろ姿が明滅し 
たしかに 聞こえた 物音と
暮色に錯覚 遠近法
みんな 不潔と たたずんだ

歩調 あわせて 勇気 なく
切りはなされた 嫌悪感
まばゆく 照らせ 水彩次元

黒ずむ 氷 耐えがたく
わたしの体を閉鎖して
汚辱の象徴 ぬかるみノート