ストレスはたまる、は本当か?マニアックな視点でストレスを考える。
ストレスは目に見えないものですが、だからこそ非常に危険ともいえます。私がこの問題を意識したきっかけは、大学院生時代、NHKの調査データをもちいた実態調査のプロジェクトをに関わり、生のデータから、ストレスの正体を可視化できないかと考えたことが始まりでした。当時の最新のデータサイエンスとデータアナリティクスの技術を駆使し、ストレスという、目に見えない複雑な問題に取り組みました。
特に、心理社会的なモデルを使った研究は非常に難易度が高く、細胞を直接観察したり発症後の患者を診察するのとは違い、推論が多く必要とされました。このチャレンジが可能だったのは、SPSSという統計パッケージがノーコード・ローコードツールとして普及し始めていたからです。IBMに買収される前の非常に初期のバージョンを使用していました。
かつては、パンチ穴を開けた調査票を分析依頼のために計算機センターへ持っていき、一晩かけて多変量解析を依頼していた時代があったと聞きますが、私はちょうどその過渡期にいたため、デスクトップパソコンの登場とともに自分で解析ができる環境が整い始めていました。
実際にストレスを指標化するためには、リアルワールドデータをもとに単純集計やクロス集計から始め、多種多様なストレス要因を考慮する必要がありました。たとえば、離婚や失業といった大きなライフイベントから、ゴミのにおいやペットの死、さらには昇進のような意外なストレス要因まで含めて、新たなものさしを作る作業に取り組んだのです。
当時の私の問いは、「ストレスは本当に累積するのか?」というもので、これをデータで証明したいと考えていました。当時、ストレスが累積するメカニズムには以下の3つの要素が関わっていることがわかっていました。
慢性ストレスの影響
短期的なストレスは一時的な反応にとどまりますが、慢性ストレスが続くと、身体的・精神的に影響が蓄積され、免疫機能の低下や血圧上昇などの健康リスクが増大します。リソースの枯渇
ストレスはエネルギーや対処スキルといった心理的・身体的リソースを消耗します。ストレスが持続すると、これらのリソースが枯渇し、対処能力が低下します。感情的および身体的疲労
繰り返されるストレスは、感情的・身体的疲労を引き起こし、ストレスがさらに累積する結果となります。このプロセスが続くと、燃え尽き症候群などの問題を引き起こすことがあります。
このようにして、ストレスの累積メカニズムをデータサイエンスを通じて明らかにし、実際に日本のサンプルを使った検証でも信頼できる指標を作成することに悪戦苦闘して、ようやく成功しました。保健学の修士号をいただけたり、NHKのストレスデータブックにデータ結果の提供といった形で貢献ができました。
ストレスは「溜まる」ということを、マニアックな視点でかんがえるとこうなる、ということが伝わったでしょうか。
ストレスが溜まるメカニズムを整理すると、以下の4つの要素があります。「たす」(ストレスが溜まる)、 「ひく」(一つひとつ解決する)、 「わる」(急性・慢性の原因を突き止める)、そして「かける」(時間や累積効果で悪化する)。この中で、「たす」「ひく」「わる」に関しては、データサイエンスの手法で実証的に解明されてきました。
一方、残された「かける」については、現在ウェアラブルデバイスやクラウドデータサービス、AI技術の進展により、今後さらに明らかにされていくと考えられます。特に現代では、ストレスの「かけ算」が複雑化しており、SNSや人間関係などの影響が絡み合い、簡単な方程式では解決できない状況にあります。しかし、これもまたデータサイエンスが役立ち、解決への道筋を提供してくれるでしょう。
参考文献
・データブック NHK 現代日本人のストレス[編著] 日本人のストレス実態調査委員会 , 発売日 2003年11月28日日本人のストレス実態調査委員会 編著
・日本の中壮年男女のライフストレス進行過程におけるSense of Coherence(SOC)の効果, 日本健康教育学会誌 (Japanese Journal of Health Education and Promotion)
Volume: 13 Issue: 特別号 Page: 272-273 Publication year: Jul. 20, 2005 久地井, 山崎, 2005 | J-GLOBAL
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