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小説の値段、本当にそれでいいの?

皆さん、こんにちは。小説家の川井利彦です。

今回は「小説の値段、本当にそれでいいの?」と題して私の考えをお伝えします。

現在の小説というか、一般的な本の値段は1500円から1800円くらい。たまに2000円の本がありますが、ほとんどがそれくらいです。

文庫本になると800円から1000円くらい。

本当にそれでいいのでしょうか?

私は安すぎると思っています。

だってそうでしょ!一冊の本を作るのにどれだけの時間と労力がかかっていますか?
短編小説であれば、数日かもしくは数週間。長編小説であれば、数ヶ月、数年とかかって、やっと一つの作品を書き上げています。

それがたったの1800円!?

あなたが命の時間を使って、身を削る思いで書きあげた作品がこんな値段でいいのでしょうか。

偉大な画家、ピカソにこんな逸話があります。
80歳のピカソがある飲食店に行った際、彼が画家であることを知った男性が、ピカソに「あんた画家なのか?だったら今、絵を描いてくれ」とテーブルにあったペーパーを渡します。
ピカソは「わかりました」と言って、20分で絵を描き上げ男性に差し出しました。すると男性は「これいくらだ?」と聞きました。
ピカソは「1億円です」と答えました。
その途端男性は激昂し「ふざけるな!だった20分で描いた絵が1億円だと?そんなふざけた話があるか!!」
ピカソは落ち着いた口調で言いました。
「20分ではありません。80年と20分です。その絵を描くために私は80年の歳月をかけてきました。だから1億円です」

わかっていただけましたか?


その作品を書きあげたのは、たったの数ヶ月かもしれません。ですが、その作品を書きあげるために、あなたが小説に費やしてきた時間は、本当に数ヶ月だけですか?

私のデビュー作である「本からの手紙」は1ヶ月で書きあげました。誰かに聞かれたら「1ヶ月です」と言います。でも本当は、私が小説を読み始めた20歳からの経験、知識が蓄積されて書きあげた作品です。

つまり正確には……「17年と1ヶ月」

「本からの手紙」は1430円で販売されています。

正直これでも安すぎると思っています。

本当は2500円。いや5000円でも安い。
なぜなら私の17年と1ヶ月がこの作品に費やされているからです。


本の値段が上がれば、印税がその分上がるので、作家には大きなメリットになります。本が売れない時代において、大勢の作家の生活を守るために大切なことだと思っています。

さらにこれは作家だけではなく、書店や出版社にもメリットがあります。

具体例でお伝えします。

本が一冊売れると書店には約20%の利益が入ると言われています。

では1800円の本が売れた場合の利益は……

1800円×20%=360円

次にちょうど倍の3600円の本が売れた場合の利益は……

3600円×20%=720円


このように利益もちょうど倍になるので、いつもの半分の売上でも十分やっていけるはずです。

出版社や作家も同様です。50万部、100万部と当たり前に売れていた時代はよかったのですが、今は小説で50万部、100万部は本当に難しくなっています。だから多くの作家が印税だけでは食えない。
でも本の値段を上げれば、例え部数が少なくても専業作家として生活していけるかもしれない。

だから今の本は安すぎるし、もっと値段を上げるべきなんです。


最後に本が値上げできない理由、私なりの考えをお伝えします。

もちろん読者が値上げに敏感になっていることも理由の一つです。
野菜やパンの値段が10円上がっただけで、過敏に反応してしまう日本人なので、1500円の本がいきなり3000円になったら、猛烈な批判を浴び、下手したら炎上するかもしれない。

そのリスクを出版社が負いたくない理由もなんとなく理解できます。

もう一つ大きな理由は作家側にあります。

「他の作品がこの値段だからこのくらいだろう」
「値段を高くして売れなかったらどうしよう」

多くの作家がこんなふうに考えてしまうはずです。

これでは絶対に本の値段は上がらない。

まずは作家が「小説の値段が安すぎる」と意識しておくことが重要なのではないでしょうか。

あなたの作品の今の値段は本当に合っていますか?
その作品を生み出すためにあなたが費やしてきた時間や情熱はそんなものですか?

そんなことはないはずです。
あなたは自分の作品の価値をもっともっと堂々と伝えていくべきです。
それをやれるのは作家しかいません。


作家からこの流れを作っていければと私は本気で考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

それではまた次回の記事でお会いしましょう。
小説家の川井利彦でした。


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