【短編小説】メディアコンバーター
局長のブリーフィングを嗅ぎながら俺は眠気を催していた。つまり退屈していた。俺のキャリアでは三年ぶり五回目の異文明との交渉だが、面白そうな、心躍るときめきなど感じようもない。今度の異文明人、アース星人は我々人類と限りなく似ていて、個体のサイズや雌雄両性なども我々とそっくりだが、とてつもなくかけ離れた面があるという。個体同士の意思疎通に空気を震わせる音を使ってコミュニケーションを取っているらしいのだ。
「まったく奇妙な奴らだが」と局長は匂わせた。「最近、銀河連盟にやっと加盟したばかりだから、こちら側からアドバイスする必要は色々とあるだろう。つまりあれこれと面倒見てやらないと」
「質問ですが」と俺は匂わせた。「好戦的な連中でしょうか?」
「数十年前まではそうだったらしいが、今はそうでもない。先遣隊の報告では大多数の個体は友好的だそうだ。あまり心配する必要はないだろう」
「一番解りづらいのは」と俺の横でアンヌー隊員が匂わせた。「この、彼らの意思伝達手段です。口の奥の器官を使って空気を振動させて、声、ですか? 声というものを使って意思疎通をおこなっているというのが、どんなものだか、まったく要領を得ないのですが・・・」
「そうだろうな」と局長が匂わせた。「銀河連盟加盟568文明の内、12文明の生命体がそのような手段で意思疎通をしている。まったくマイナーな連中だよ。匂い物質を放出して受け取って意思疎通したほうがはるかに便利だし簡潔に伝わると思うのだが、まあ、知的生命体に進化する過程で、どういうわけだかそんな袋小路に迷い込んでしまったのだろう。解っている範囲でも彼らも嗅覚の受容体だけは持ち合わせている。ただ匂い物質を発信する器官はまっるきり退化しているとのことだ。この点は我々が音を聞くことは出来るが、まったく音を出すことは出来ないのと似ているな。そんなわけだから、技術部が作ってくれたこいつが役に立つ」
局長は俺たち三人の隊員に小さな機械を配った。穴の開いた立方体にチェーンが繫がりペンダントのように首に吊り下げたまま使うという。相手が発した音を解析して匂い物質に変換してくれるメディアコンバーター、いわば翻訳機だ。
「同じものはすでに相手側にも渡っている」と局長は匂わせる。「これで意思疎通に不備はないはずだが、そう簡単に行くとも思えない。私の経験上、新参の連中とは大抵なにか問題が発生する。ただ君たちならうまく立ち回ってくれると思うが」
「ええまあ、努力はします」と俺は匂わせた。
局長は退出していき、俺達三人の隊員が残された。アンヌー隊員は俺と変わらぬベテランだが、もう一人、ソガホー隊員は今回が初の交渉となる若手である。彼女は渡された資料をじっくりと読みふけっている。
「大丈夫そうかな」と俺は彼女に匂わせた。
「どんなことになるのか、まったく想像もつきません」とソガホー隊員は匂わせ、資料の束を机に置いた。
「私たちとあまり違わない種族のようですね、このアース星人たちは」とアンヌー隊員が匂わせる。「だから私たちが彼らをアテンドすることになったんですかね」
「そうだろう」と俺は匂わせた。「アース星の重力も大気の組成もほとんど同じだ。彼らの身体のサイズやデザインも私たちとそれほど変わらない。樹上で生活していた生物から進化したのも同じのようだ。声を使うという変な習性を除けばだが。心配かな?」
「勉強しておきます。これだけの資料ではぜんぜん足りませんね」
「アース星人の使節が到着するのは十日後だ。それまで各自で勉強をしておいてくれ」
俺は自分の部屋に戻り、改めてアース星人の歩みを調べ直した。彼らが銀河連盟に加入申請したのはまだ五年ほど昔、つい最近のことだ。その頃、彼らはやっと自国惑星内での内戦が終わり、平和な社会を作り上げた。ただ凄惨な戦争の時代が長く続いたために生き残ったアース星人は三十万人ほどの少なさで、そんな惑星内を立て直すのにも銀河連盟加入は不可欠となった。申請は受理され、連盟の正式なメンバーになったものの、彼らは他の文明との交渉をあまり持っていない。というより、自国惑星に引きこもったままほとんど使節を派遣してこない。今回の使節派遣は、公式に言っても二回目の連盟本部との接触になる。俺は非公式にアース星を訪れた先遣隊のリポートを何度も読み返した。アース星人は基本的に怠惰で、自虐的で皮肉屋だと報告書にはある。しかし、それも最近まで続いた内戦により大きなダメージを負ったことが原因のようで、本来は違う性質の種族かもしれない、と結んでいる。内戦前の資料もないことはないが、当時はまだ直接の接触はなしに監視をしていただけなので、具体的な習性までは分からない。「やはり内戦による混乱が問題のようです」とアンヌー隊員がノホホイ茶のカップを傾けつつ匂わせた。
「詳しい情報を掴んだのかい?」と俺は匂わせた。俺達はティーラウンジで向き合っていた。窓の外には中継ステーションに出入りする宇宙船が行き交い、眼下には俺達が使節をアテンドする惑星の地表が広がっている。
「これは私の個人的なルートで得た情報ですが、どうもアース星は一度壊滅していますね。とんでもなく強力な破壊兵器が使われたようで、彼らアース星人も、その他の動物などもほとんどが戦争の被害で死滅しています。現在のアース星人は、周辺の小惑星などに避難していた一部が戻ってきて、なんとか復興しようとしている途上のようです」
「なるほど、それなら皮肉屋にもなるか」
とそこにソガホー隊員の姿が目に入る。ラウンジの入口から入ってこようとしていたがすかさず踵を返し、出ていこうとする。「ソガホー君!」と俺は強く匂わせた。
高級学校を出たばかりの若い彼女は一瞬立ち止まり、こちらにゆっくりと振り返った。「お二人でお嗅ぎ合いのところ、お邪魔とばかり」と彼女は匂わせる。
「何を匂わせる、我々はチームだ」
「勘違いをしているようね、お嬢さん」とアンヌー隊員が笑みを浮かべつつ匂わせる。「私たち、別に何もないわよ」
「はい、そうですね、失礼しました」
「今は自由時間だが、君が許すならアンヌー隊員のレクチャーを嗅いでおき給え」
「そうします、はい」
「そうしましょう、お嬢さん。局長や主任のお硬いレクチャーなんかよりずっと楽しいわよ」アンヌー隊員は笑みを浮かべ匂わせた。
アース星人の宇宙船が中継ステーションに入港して来た時、俺達は到着デッキで待ち構えつつ、最後の打ち合わせをしていた。彼らの習慣、マナー、ジェスチャーなどを確認し、メディアコンバーターのスイッチを入れた。ボーディング・ブリッジで船とステーションが繫がり、使節団が降りてくる。音楽やセレモニーは最小限でいい、とのアース星側の要望なので、静かなまま三人の使節団がステーションの広いフロアに入ってきた。それでもこちら側には連盟幹部や周辺の惑星からの首脳が30人ばかり待ち受け、出迎えた。というより、辺境からの使節を迎えて箔を付けたい野次馬、物見雄山な連中だ。アース星人は彼らからの挨拶を順に受けつつ、俺達の方に歩いてくる。動画以外の、実物を見るのは初めてだが、確かに俺達とは大きく違わない背格好だ。しかし音を使ってコミュニケーションを取るための、頭の両側に異様なくらいに出っ張った耳はよく目立つし、周辺の匂いを嗅ぎ取ることにしか使われない鼻は下向きにしか穴が開いてない。確かにあれでは匂いを使った意思疎通などできないだろう。三人の使節の先頭を歩いていた牡の個体が手を差し伸べてくる。解っている、これが握手だ。俺は彼の右手を握り返した。すると彼の口が動き音を発した。
これが声か。砂浜に打ち付ける波のようだし、風に揺れる木々の葉っぱがざわめいているようでもある。すぐに首から提げたままのメディアコンバーターが匂い物質を放出した。「あなたが担当者ですね」そう首から下げた機械が伝えてくる。「私の名前はジムジャクソン。短い時間ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。みなさんをアテンドするドンレー星外務部交渉隊のアイギーです」と俺が発した匂いは彼らが首から下げたメディアコンバーターにより、すぐさま音に変換されて伝えられた。「今日のところはこの中継ステーションの中で休んでいただきますが、明日はこの下の惑星に向かいます。皆さんのアース星とほとんど同じ自然の星です。宇宙服などなしに過ごしていただけます」
「ああ、それは素晴らしい」
ジムジャクソン以外の二人の雌、メルリブンとファラリンクインはアンヌー隊員とソガホー隊員が受け持つ。そもそも俺達のチームは彼らのメンバーに合わせて編成されたもので、俺達は六人で並んで歩き、彼らに合わせて用意された部屋に向かう。とはいえ、俺達とほとんど変わらない身体のサイズなので、特別に作られたものは特にない。中継ステーション内の賓客用のスペースにあるホテルの一室だ。
「こちらでしばらく休んでいただいてから、二時間後に連盟幹部との会談があります。時間になりましたら、また呼びに来ます。それまでお寛ぎください」俺は三人のアース星人にそう伝え、部屋を出た。俺達の待機室はホテルのロビーの脇に用意されていた。
「今の所、まずまずですね」とアンヌー隊員が匂わせた。「問題になるようなことはありません」
「そちらはどうだった?」と俺はソガホー隊員に匂わせる。
「はい、大丈夫だった、ような、そんな気がします」
「自虐的で皮肉屋なんてレポートもあったが、アース星人もなかなかの文明人じゃないのかね」と俺は匂わせる。「考え過ぎなんだろう」
その日の会談は滞りなく無事に終わったというのは、翌日になって局長から嗅がされていた。連盟幹部たちとアース星人との協議は事前にほとんどの合意が済んでいたとはいえ、双方とも終始にこやかに進行して、一時間とかからずに合意文書にサインするところまで終わった。ただ局長が嗅がしてきた機密事項に俺は少し驚いた。「そうなんだよ、アイギー」局長は匂わせる。
「そんなことをする意味はあるんですか?」
「さあな」局長はくんくんと鼻を動かして匂わせる。「このあたりがレポートにあった彼らの独自性なんだろう」
俺たちの任務の二日目、今回のアテンドでの最大のハイライトが彼らアース星人をホイヘン星へ連れていき、もてなすことだった。俺達三人は発進デッキでアース星人を待っていた。そこにやって来たジムジョンソンたち三人の顔に俺は注目する。彼らの顔の変化による感情の動きも俺達はあらかじめ動画で何度もレクチャーを受けている。口の両端が上向きな表情は昨日のこわばったものより、かなり穏やかに変化している。つまり彼らも会談が成功してほっとしているということだ。
「おまたせしました」とジムジョンソンが伝えてくる。
「では、これから私の操縦でこの中継ステーションの下に広がるホイヘン星に向かいます」俺も伝える。二人の雌が一瞬、ほんの短い時間、何やら不快そうに表情を変化させたが、俺は気が付かないふりをした。
俺は操縦席に腰掛け、シャトルを出発させる。操縦と言ってもボタンを押してしまえばあとは自動に飛んでいく仕組みだ。眼下の星の地表が広がり、視界の半分を占めていた暗い宇宙の帳は消えていく。それからはあっという間だ。雲を突き抜け、シャトルは一気にホイヘン星の濃密な大気圏に突入していく。数分で地表が大きく広がる。緑の木々が生い茂る森林地帯にたったひとつ突き出した一枚岩の上、見晴らしのいい台地の上に今回、俺達が向かう仮設のゲストハウスが建てられている。シャトルは徐々に減速していく。
三人のアース星人は声を漏らしつつ、窓の外を眺めている。メディアコンバーターが翻訳してくれないことからすると、意味のある言葉ではないのだろう。シャトルはジェットを噴出しつつ、岩山の上に静かに着陸した。程よい日差しが降り注ぐ、ちょうど正午に合わせて到着という予定に今のところ狂いはまったくない。
「ひとつ質問させていただいてもよろしいかな」と昼食の席でジムジャクソンが伝えてきた。「この星は単なる植民星なのでしょうか?」
俺達は岩山の上にテーブルを並べて向かい合わせに座っていた。配膳ロボットがうろちょろと行き交っている。「ええ、そうですね」と俺は伝える。「我々ドンレー星の第八植民星です。ただし開拓はほとんどはじまったばかりです。大規模な植民はほとんど行われていません」
「住人はいないのですか?」とメルリブンが伝えてくる。
「恒久的な住人はいないはずです」とアンヌー隊員が伝える。「このような仮設の施設がいくつか点在しているだけですね」
「これは仮定の話なのですが」とジムジャクソンがナイフとフォークを置き、両手を広げて伝えてきた。「われわれアース星人がこの星に植民することは可能でしょうか?」
「仮定の話にどう答えたらいいのか判別し難いですが」と俺は伝える。「われわれドンレー星の別の植民星に我々以外の住人が移り住んだ例はなくはないです。ただそれも大規模なものではありません。それに本星および植民星の議会でかなり煩雑な手続きを要したのは確かです」
「そうでしょうね」とジムジャクソンは伝えてくる。そして声にならない息を深く吐いた。当然、俺の首に下げたメディアコンバーターは沈黙したままだ。「ご存知でしょうが、アース星はすっかり荒廃しています。長く続いた内戦のせいです」
俺達は何も返さず、彼の次の言葉を待つ。
「そのため、もうアース星そのものを放棄すべきだ、という声もあります。汚染がひどくて土地の半分以上は人が暮らせないほどです」
「半分というのは穏やかですね」とジムジョンソンの隣でメルリブンが発した声を、メディアコンバーターが匂い物質に変換した。「地表の九割はとても人が住めたものではありません。残されたアース星人の大部分は地下に潜って暮らさざるを得ないのが現状です。当然、少ない資源も奪い合うような殺伐とした、厳しいものがあります」
ジムジョンソンが彼女の前に腕を伸ばして慌てたように声を発した。メディアコンバーターが翻訳する。「だ、大統領、そんなことまで・・」
俺とアンヌー隊員が顔を見合わせる。打ち合わせどおり、驚いたような素振りを見せる。そして俺は伝える。「大統領?」
「すみません、みなさんを騙すつもりなどなかったのです」とメルリブンが穏やかに伝えてきた。「私は今回の使節の一員ですが、アース星を経つ寸前に大統領に選出されました。民主的な手続きで、正式にこの職に就いたのです。今回の使節を辞退することも出来たのですが、いえ、直接銀河連盟の皆さんにお会いするのも悪くないと考え、こうしてやって来ました」
「昨日の会談では?」
「秘密にするつもりなどなかったのですが、正体を明かす機会はありませんでした」とメルリブンは伝える。「あらかじめ決まっていた合意内容におかしな影響を与えるわけにもいかず、黙っている方が得策だと判断いたしました」
「昨日の合意にアース星の方々の移民についての取り決めもなかったはずですが」
「ええ、アース星の復興に協力していただける、そんな内容です」メルリブンは伝えてくる。「それだけでも、ありがたいお話です」
昼食が終わり、俺達は席を移動する。岩山の先、崖の手前に並べられたソファーにお茶が用意してある。岩山の下には緑の木々が延々と生い茂っている。いくつかの山岳地帯を遠くに望むが、それ以外はジャングルの緑が地平線まで続いている。まるっきり手つかずの自然だ。静かだった。植物以外には昆虫ほどの生物しか確認されていない星なので、風が木々の葉を揺らすより他、音を立てるものはないのだ。
「すばらしい眺めです」とメルリブンがノホホイ茶を啜りながら伝えてくる。「我々の星の昔の姿によく似ている。昔の、戦争が起きる前の、自然のままの私たちの故郷の星に」
「我々の星の昔の姿にも似ています」と俺は伝えた。「ずっと広がる植物に覆われた地表、この木々の上でわれわれは知的な生命体に進化したと考えられています。そのあたりはアース星も同じのはずです」
「ええ」
「この星にアース星の方々の植民を認めるかどうかは、私たち下っ端の者が判断できる話では当然ありませんが、そのような要望があったと正式に上に上げることは可能です。如何なさいますか?」
「いえ、結構です」メルリブンは伝える。「ただの戯言です。忘れてください」
いきなりファラリンクインがソファーから立ち上がった。慌ただしく歩き出しながら服の内側から無線機を取り出して交信をはじめる。何やら大きな声を上げている。メディアコンバーターが断片的な翻訳を伝えてくるが、要領を得ない。俺は何も伝わっていない素振りをする。ファラリンクインが交信を終えて、メルリブンの正面にやって来て立ち止まった。
「大統領、本部から通信なのですが、あの、その、出来れば人払いをお願いできますか?」とファラリンクインは声を発し、メディアコンバーターが翻訳する。
「いいえ、そんなこと意味ないわ」とメルリブンが答える。「連盟の皆さんに隠し事なんて出来るわけはないんだから。いいから伝えて頂戴、だいたい予想はつきます」
「ええ、そうです。アース星で内戦がはじまりました。反乱分子と軍部の一部が結託して居住区の一部を占領したとのことです」
「さて」とメルリブンが俺の方に顔を向けた。「確か銀河連盟の加入条件に内戦状態じゃない、というものがあったはずですが」
「はい、そうですね」俺は伝えた。「基本的に連盟は交戦状態にあるどちらの勢力にも加勢はしません。つまり戦争は当事者である皆さんで終わらせないといけません」
「せっかく加盟したのに、追い出されてしまうのかしら?」
「原則では資格の停止、になるかと思います」
「上の人には秘密にして、と今私が頼んでも意味はないですよね」
「ええ、おそらく」俺はアース星人の表情を真似て伝える。本心ではないが仕方なくせざるを得ないのだ、という感情を顔に浮かべてみるが、彼女たちに伝わったかどうかはわからない。
メルリブンがソファーから立ち上がる。そして二人の部下に伝えた。「さて、帰りましょう」
中継ステーションに向かう途上のシャトルの中では、誰も何も伝えなかった。アース星人たちも声を発しなかったし、俺達も何も匂わせなかった。ただ降下していった行きと違って、ホイヘン星の成層圏の上を周回する中継ステーションに戻る行程は、倍の時間がかかる。本来なら今夜は岩山の上のゲストハウスで過ごす予定だったのだが、彼らは急いで帰路につくため明日の予定だった出発のセレモニーもすべてキャンセルになった。俺はふと女性大統領に目をやった。物憂げな表情で間違いないだろう。昨日の合意もすべて反故にされるのだから、その落胆ぶりは計り知れない。
シャトルは中継ステーションに辿り着く。三人のアース星人はそのままやって来た自分たちの宇宙船に乗り換えになる。到着時と違って見送りの要人もいない。俺達と局長、数人の連盟幹部くらいだ。
「そういえば、お聞きしたかった」とメルリブンが俺の正面で立ち止まり伝えてきた。
「はい、なんでしょう」
「内戦の定義です。どのような状態が内戦にあると定義されるのでしょう? つまり使っている武器です。おそらく現地では鉄の刃物や棍棒、せいぜい弓矢くらいのはずなんです。我々の星はすでに火薬を作る材料さえ手に入らない状態なんですから。それでも銀河連盟の規約では内戦状態になるのかしら?」
「ええと、それは」俺は答えに詰まった。
「武器に関して定義はありません」横からアンヌー隊員が伝えた。「正当に選ばれた政権に対して、暴力的に抵抗する勢力がどれだけの規模であり、どれだけの期間、抵抗し続けるか、です。ですので、連盟も近く調査員を派遣するはずです。資格が停止になるかどうかは、調査の結果によります」
「それなら、まだ望みはあるのね」とメルリブンは二人の部下を見た。ジムジョンソンとファラリンクインは首を縦に数度動かした。
「では、みなさん、今回はアテンドありがとう」
三人のアース星人は自分たちの宇宙船に向かって歩き出す。俺達は直立したまま見送る。200スピジオンほど離れて、彼らはもう一度振り返り手を振った。俺達も答えて手を振り返した。俺はメディアコンバーターのスイッチを切ろうとした。しかし、胸に下げた小さな機械は俺達の耳ではとても聞こえない遠い距離からの彼らの声を拾い、翻訳して伝えてきた。
「終わった終わった、やっと帰れるわ。豚鼻のキモい奴らが臭い息をブーブー吐きかけてくるんだから。これでせいせいするわ」
豚という動物がどんな生き物なのか分からないが、きっと蔑んだ意味を含んでいるのだろう。俺の横でソガホー隊員がなにか匂いを発しようとしたが、俺は腕を伸ばして制した。もともと彼らの星の運命など俺達が知ったことではない。進化の袋小路に迷い込んだ奴らだ、きっとこのまま迷い続けて絶滅の道を辿ることになるのだろう。
(了)
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