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理二から法学部へ

はじめに

 こんにちは。2020年夏の進学選択で理科二類から法学部に進学しました、東大特進スタッフの石川と申します。

 みなさまも既にご存知かもしれませんが、東京大学は進学選択の自由度が高く、進学ルートの場合の数が異常なまでに多い大学として知られており、今までの勉強とは全く関係ないような学部に進学する学生が、毎年一定数存在します。そのような、非常に多岐にわたる進学ルートの中でも、「理系→法学部」というのは、毎年数人しか辿らない、特にマイナーなルートとして知られています。

 もしあなたが、わざわざ理系で東大に入ろうとしているにもかかわらず、法学部などのいわゆる文系学部に進学することも考えている、というちょっと物好きな方、あるいは、とりあえず理系で入学しようとしているが、入学後の進路はまだ考え中、という悩み多き方なのだとしたら、もしかしたらこの文章が参考になることがあるかもしれません。少しだけお付き合いいただければ幸いです。

大学入学まで

 心理学の知見によれば、人間には、「なるべく多くの選択肢を残しておきたがり、そのために必死になる」傾向があるといわれています。進学選択に臨むまでの私の経歴を振り返ってみると、私はまさにそのような人間であった、ということを認めざるを得ません。東大に入学することを志したのも、「とりあえず東大を目指しておけば、ほかに行きたい大学が見つかっても融通が利くだろう」程度のものでしたし、高2のときにひとまず理系の道に進んだのも、「まあ数学アレルギーではないし、これから仮に興味が移ったとしても、文系に進んで理転するよりも逆の方が楽だろう」と考えてのことでした(ちなみに理一ではなく理二を志望したのは、「大学はいってからめちゃめちゃ頭良くなったら、ひょっとしたら医学部に進学できるかも?」という、若造のなんとも傲慢な動機からです笑)。

 受験生時代はごく普通の理系受験生として過ごし、幸運にも入学試験に合格することができました(受験の話を2行で終わらせるとはこれいかに...)

前期教養での生活

 前期教養で1年半を過ごした感想は、とにかく「忙しい」でした。理系は必修だけで週12コマあるのですが、私はそれに加えて中国語TLPの授業も履修していたので、デフォルトで週15コマというなんとも頭のおかしい状態となっており、それに自分の興味のある科目を合わせて週16~18コマという状況が1年半続く、という感じでした(2年の前半、Sセメスターは余裕がある人が多いのですが、私は1年で必修以外の授業をほとんど取れておらず、その埋め合わせを試みた結果、結局週16コマになってしまいました)。

 受験生時代は、「大学はいって暇になったらいろんな分野の勉強をしてみようかしら」とか思っていたのですが、予想以上に毎日が忙しく、結局あまりできませんでした。大学に入ると娯楽が増えたりバイトを始めたりと、時間の使い方が多様化するので、勉強の時間というのは、意識的に作り出さない限りなかなか確保できないものです。

進学選択と法学部

 そのような状況ではありましたが、高校時代はとりあえず先送りにしていた自分の進路についても、さすがに真剣に考えなければならなくなってきました。専門科目の講義にもぐったり、各分野の入門書を読んだりする中で、有力な選択肢として浮上したのが法学部でした。

 大学入学後に文転した、と言うと、大学に入ってからそんなに理系科目が苦手になったのか、理系の勉強を諦めて仕方なく文転するのか、と思われるかもしれませんが、必ずしもそういうことではなくて、むしろ、成績状況からいえば、普通ならそのまま理系のどこかの学部に進むよね、というような感じでした。 

 つまり、「このままいけば問題なく進めそうなレールをはみ出してまで、法学部に行きたい」と、自分にしては珍しく積極的に進学を志望できたのであり、そうまでして法学部に行きたい、と自分で思えたのは、法学、特に民事法分野に対する学問的な興味があったからだと思います。

 そうと決まれば、あとは内定のために必要な点数を稼がなくてはいけないのですが、これがなかなか読めない。それもそのはずで、「理系→法」はただでさえ枠が小さい上に、志望人数も毎年バラバラ、各人のモチベーションの高さもそれぞれなので、志望者の状況次第で底点が毎年大きく動いてしまいます。とりあえず、過去の傾向を見て、85点を取ることを目標に勉強していました(来学期に民法を勉強するために今学期は量子化学を勉強しなきゃいけない、というのはなんともシュールですね笑)。ちなみに前期教養で点を稼ぐコツですが、理二ならば第二外国語と数学をまじめに勉強することが非常に重要だと思います。どちらの科目も、苦手な人が多いにもかかわらず単位数が多いので、ここで高得点を取っておくと大きなアドバンテージになってくれます。

 最終的には、進学選択時の点数は83点弱で、当落線上ギリギリかな、という感触でしたが、運よく第一段階で進学内定をもらうことができました。

法学部での生活

 東大法学部というところには、伝統的にいくつかの特徴があるのですが、その中でも一番大きなものが、「学習範囲の広さが尋常でない」という点です。他の大学では4年間かけてやっていることを東大法学部では2年半で終わらせなければならず、その授業内容もかなり深いところまで掘り下げられることもしばしばなので、当たり前といえば当たり前なのですが、それでも試験前の絶望感は察するに余りあるものがあります。

 ただ、各科目とも前提知識は特に必要とされておらず、授業では基礎的なところからやってくれるので、それまで法学に一切触れてこなかった人でも特に支障なく勉強に入っていくことができます。文系の頂点のようなイメージがある法学部ですが、実は大学に入ってから文転した人でも意外になじめるということですね。

「文転」を視野に入れている人へ

 まず一般論ですが、法学部に行くなら文一に入った方がラクですよ笑。近年だと、文一から法学部への進学は定員が割れることもしばしば、単位さえとっていれば進学内定、という感じなので、早い段階で「法学部しかない!」と思えたなら、その時点で文一志望に切り替えた方がいいと思います。

 ただ、そうはいっても、現実はそう簡単じゃないだろう、と思う方がいらっしゃることも承知しています(というか、私が受験生時代にこんなことを言われていたら、間違いなくこういう反応をしていたことでしょう)。やっぱり法学部ではないところに活きたくなるかも、という思いを捨てきれない方もいるでしょうし、文系科目より理系科目の方が得意なので受験はそちらで突破したい、という方もいるかもしれません。周りからは「優柔不断」と言われるかもしれませんが、そもそも高校の段階で将来勉強したいことが決まっている人のほうがすごいのであって、このような悩みを抱えるのはむしろ普通のことだと思います。どの科類に入ったとしても、文転理転を含め、ほぼすべての学部に進学できるようにはなっているので、まだ進路で悩んでいる方は、とりあえず東大に入ってみてそれから悩む、というスタンスでも全く問題ないと思います。そのための前期教養ですからね。

 もちろん、1年半の猶予は与えられるとはいえ、決断をいつまでも先送りにしておくことはできません。遅かれ早かれ、自分の進路について決断をすることになるので、「どの学部のどの点に興味があるのか、ここに進んだら何をしたいか?」と常に考えながら、駒場での1年半という時間を有意義に過ごしていただきたいと思います。どこに進むか決めるのは、ほかでもないあなたの仕事です。

おわりに

 「法」や「裁判」などと聞くと、ニュースやドラマなどの影響で、おそらく大多数の方は刑事裁判のことを思い浮かべると思います。そこでは「善vs悪」のような構図が比較的はっきりとしており、刑法をはじめとする刑事法は、その「悪」を裁き、社会の秩序を維持するために存在しています。

 法のこのような側面ももちろん重要ですが、しかしながら、法の担う機能はそれだけではありません。「刑事」と対置される概念として「民事」がありますが、そのもう一方の裁判、民事裁判においては、当事者間の関係は「善vs悪」とは限りません。たとえば、「Aが所有していた宝石をBが盗み出し、その後、事情を知らないCが転売された盗品の宝石を購入したところ、AがCに宝石の返還を請求した」というようなケースでは、AとCはどちらも、いわば「善人」であるはずです。にもかかわらず、どのようにしても結局どちらかが割を食うことになってしまう。さあ、どのように解決すればよいでしょうか?その解決の指針を示してくれるのが、民法をはじめとする民事法です。つまり、利益衡量によって、必ずしも悪人とは限らない両者の利害を調整し、紛争を解決することが、民事法に与えられた使命である、ということです。このような、利害を調整して紛争を解決するという方の機能、また法によってそれを実現しようとする起草者や裁判官の思いが、私を法学部へと導く原動力になったのだと思います。

 法学部で学習することで得られるものは、条文や手続きの暗記などといった形式的なものにとどまりません。その本質はむしろ、それらが制定された背景にある「法的思考」の理解である、と考えています。私はまだまだ、それらをマスターしたという状態からは程遠いと思いますが、勉強を続けていく中で、いろいろな角度から法律を眺め、「法的思考」に対する理解を深めていければと思います。

 ひょっとしたら、これを読んだあなたにとっても、法学部は魅力的な進学の選択肢となってくれるかもしれません。


2019年度入学、2020年度進学選択を経て、現在、東京大学法学部第一類(法学総合コース)3年

石川 皓大

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