熟議民主主義とGIRON
「GIRON」というアプリがある(現在のところiPhoneアプリのみ)。名前の通り議論を行うためのアプリなのだが、個人的にはなかなか良いと感じている。
このアプリのどこが良いのか。これがうまく説明できない。議論アプリといっても基本は掲示板機能である。掲示板機能などインターネット黎明期より存在するわけで。類似アプリだって山ほどある。このアプリの特徴としては「いいね」とは別に「リワード」というコインの贈答ができること。しかし、この機能だけで良いと感じているわけでもない。
「slackでいいじゃん」と自分に突っ込む。自分の直感はどこに引っかかったのか。
モヤモヤの中を逡巡しているうちに、政治社会学におけるハーバーマス的な公共圏という概念(=意思決定のために世論が濾過されて公衆意志が形成される場所)を思い出した。その延長で、集団における自らの意見を形成していく民主的な方法の一つとして「熟議民主主義」という考え方があり、GIRONはこの「熟議民主主義」に近づける可能性を持っているがゆえに良いと感じている自分に気づく。
「熟議民主主義」を他の民主主義制度と比較論述した良書として『人々の声が響き合う時(ジェームズ・S・フィシュキン)』がある。この本で紹介された他の民主主義と照らしああせつつGIRONの位置付けを見てみる。
【四つの民主主義理論と該当するアプリ】
(1) 競争的民主主義:人はカリスマを選び、カリスマの意見を尊重する。議論というより、思想的リーダーシップの意見拝聴となりやすい。ブログ、YouTube、Instagramといったブロードキャスティング的な性質を持つアプリと相性が良い。
(2) 閉鎖的な熟議:クローズドな環境で限定した人達で意見交換や討議を行う。Facebook、LINEのようなSNSアプリに始まり、SlackやChatworkをはじめとするビジネスチャットもここに該当するだろう。チケット管理アプリ(trec、redmine、backlogなど)もこのカテゴリに入るように思う。
(3) 参加民主主義:オープンに誰でも好きに発言できる。自由な発言による意見を尊重しようと言うもの。Twitterや2チャンネル、そして多くのWEB上の掲示板(BBS)が該当する。
(4) 熟議民主主義:オープンでありながら世の中の縮図となるような意見構成による討議が行われる。「討論型世論調査」と呼ばれる活動が代表的。そして、この思想に沿ったアプリは少ない。
「平等」「参加」「熟議」「非専制」といった民主主義に求められる要素の全てを満たす制度は(今のところ)存在しない。そして、大小様々なアプリが「(1) 競争的民主主義」「(2) 閉鎖的な熟議」「(3) 参加民主主義」な思想の下にひしめき合っているが、「(4) 熟議民主主義」な思想に基づくアプリはなかなか見当たらない。
私は、ハーバーマス的な、討議から秩序と平和が育まれるとする考え方を好む。新しい天皇を迎えるに当たって、改めて民主主義を考えたい気持ちもあったりする。だからなのか、GIRONに勝手な可能性を感じたりする。
GIRONが今後どのような方向に進むのかは分からない。それでも「(4) 熟議民主主義」な思想を意識する限り、ブルーオーシャンを泳ぐことができそうなアプリではある。
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