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働き方解体SHOWで感じた7つのこと

今年のゆるい目標として、月に1本はnoteを書こうと思いSXSWのTipsについて書いてから早半年。全く目標を達成していない。夏休みということもあり、読書感想文ならぬイベント感想文を書いてみた。このほとんどはイベント帰りのロマンスカーで書いたのだが、理由もなく2週間ほどEvernoteで寝かせてしまった。

本を読んだり、講演やイベントに聴講側で参加したりという一見インプットのプロセスに見えるこれらの知的活動は、実はアウトプットのトリガーの1つであり、アウトプットのプロセスである面が強い。よって、本noteもイベントの議論を紹介しているものではなく、あくまでも自分のアウトプットだ。

ちなみに、noteは最近SEOが進化していてGoogle検索でかなり上位にくる。そんなこともあってか最初に書いたSXSW記事も意外と多くの方に読まれていて、とても一回の講演では集められない数であることを考えるとモチベーションが湧いてくるし、少しでもどこかで誰かの役に立っていることを願う。


前段が長くなったが、今回参加したイベントはコチラ。こういったイベントに参加するのはSXSW報告会以来で実に久しぶりであった。


”ビジネスマン 働き方解体SHOW!! Supported by コクヨ”

参加の経緯はFacebookでLinkedin 日本代表の村上さんと、Plug and Play COOの矢澤さんが出演という告知を見て興味を持っていたところ、コミュニティー・アクセラレーターという恐らく日本でただ1人の肩書を持ち、いつもお世話になっている河原あずさんからお声がけ頂き参加することができた。

登壇者は上記の3名に加えて、
三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部の古川さん
KOKUYO WORKSIGHT LAB. の山下さん
コクヨ4年目の社員の方(ミレニアル世代代表)
というラインナップ。

内容は働き方解体SHOWということで、

 働き方とは?
 AIの影響は?
 生産性とは?

などといった最近話題のキーワードについて、参加者へのアンケートを交えながらトークが繰り広げられた。


ちなみに、自分が思うよい働き方や環境に関しては以下に纏めてみた。

上記のような意見をもってイベントには参加し、そこで繰り広げられた議論を比較しながら色々と考えた。


イベント全体を通じて、あずさんの自分はよく知ってるけど聴衆目線で知らんふりして質問するやり方や山下さんの他の人とは異なる視点からの冷静な洞察が目を引いた。


1.働き方改革は非連続的に進む可能性

「日系企業では周囲の企業が取り組んでいるとその取組を真似して推進するきらいがある。今、多くの金融機関がFinTechオープンイノベーションハブを作っているように笑。なので、一社リーディングカンパニーが効果的な働き方改革を実践して効果が出ると一気に加速する可能性がある。もしかしたら我々の予想より早いかもしれない。」by 山下正太郎氏


よって、リニアに少しずつ浸透するよりも、ある時期急激に進化することが有り得るかもしれない。業界の雄たちには勇気をもって踏み出してほしい限りだ。

丁度イベントの日に日立がテレワーク対象者を10万人に拡大することが発表されたが、こういった日本の大企業がやると周辺企業は”あそこはこんなことやっているぞ。うちもやろう”という日本の同調文化が最大限発揮されるのではないだろうか。そのため、最初の一社が素晴らしい施策を打てば、それは急激に広がる可能性が高いというのは説得力がある。特に、その最初の一社がいかにも日本的でお堅い会社なほど効果は高いと思っている。

少し話がそれるが、他社がやり始めているからうちも何かやろうという対象になっている可能性が高いものを並べてみた。
・Open Innovation
・IoT
・VR/AR
・FinTech/Blockchain
・AI
・ワークライフバランス

ちなみにこの日本企業における波及効果は、SalesForceの日本進出の戦略でも生かされているそうだ。よく日本の特性を理解しているなと感心させられる。


2.AIは最強の相棒

「将棋ではもうAIが棋士を負かす時代です。今後どうしますか?」と聞かれた羽生さんは笑ってこう答えたそうだ。「そのときは桂馬が横に飛ぶとかルールを少しだけ変えればいいんです」by 村上臣氏

AIは既存のルールの中で集めた数十年分のデータを活用して最適なパターンを計算して次の手を打つ。つまり、ルールが変わってしまうと、それまでのデータでは最適なパターンを計算することができない。

ルールを作るのは人間であり、AIが進化しても所詮は人間が定めたルールの中で高いパフォーマンスを発揮するに過ぎないという羽生さんの洞察はかなり本質を突いているのではないだろうか。

ちなみに、羽生さんの意見はAIと人間が向かい合うようなことになった場合に、という文脈で述べられたものだと思うが、そもそも人間とAIは同じ方向を向かうものであるはずだ。

囲碁の世界でも、人間<AI<人間+AIの順で強いことが実証されている。つまり、同じ方向を向かうことで最強の相棒になるのだ。確かに、AIに多くの仕事が代替されることは事実だが、それに伴って生まれる仕事も多い上に、そもそも日本では労働力が不足するのだから何も心配する必要はない。心配するとしたら、どうしても同じ仕事を続けたいという場合のみだろう。

働き方とセットの場合、将来我々の仕事を奪う厄介な存在として語られることが多い”AI”だが、最強の相棒だ。


3.移民を受け入れるか、日本を変えるか?

「移民を受け入れるにしても今の日系企業では明文化されていないハイコンテクストなカルチャーのため、うまくワークしないのでは?」by 山下正太郎氏

山下さんは海外を渡り歩いていると紹介されていたので各国のハイ/ローコンテクスト分布をよく理解されているのだろう。

私もこれはその通りだと思っている。移民を単なる使い勝手の良い労働力と思ったら大きな間違いで、日本という排他的な文化・言語で構成される国において移民がスムースに社会に溶け込むには社会の変化が必要となる。特にAI時代には、単純労働は少なくなるのだから、移民の方々の仕事はコンビニの店員では無くなる。

ハイコンテクストな世界で多様化が起こる場合、必然的にローコンテクストにならざるを得ない。そうしないとコミュニケーションが成立しないからだ。アメリカが人種のるつぼと言われ、ローコンテクストのメッカなのは必然である。

よって、日本の長い歴史の中で育まれた文化を変化させ、行動様式を変更すること無しに表面的に”労働力減少➝移民で労働力確保”という構図は成り立たないことを認識しなければならないだろう。

アメリカほどでは無いまでも、ある程度多様性のあるEUにおいてすら移民は大きな問題になっている。ドイツやフランスは積極的に移民を受け入れたが、ポーランドやハンガリーは自国のアイデンティティを守るために国境警備を強化し、移民は受け入れない方針を採用している。

このように、自国はどうしていくのかをはっきりと打ち出し、その目的に対し最適な手段を取ることが重要だ。現状、日本は移民をほとんど受け入れていないが、今後どういった方針が取られるのだろうか。


4.誰の生産性?全レイヤの生産性向上が必要

「そもそもこの国は生産性という言葉をしっかりと理解しているのだろうか?」by 村上臣氏

最近も、とある国会議員の爆弾発言で生産性という言葉に注目が集まっているが、生産性は働き方改革においてその言葉と同じくらい使われる言葉だ。

恐らくその背景には、働き方改革で議論されているのが、生産性向上というよりかはインプット(労働時間)を減らそうという観点ばかりだからだろう。

OECD等で比較されるランキング(日本は先進国で最下位レベル)は主にGDP/労働時間・労働人数で一人あたりの生産性を定義していることが多い。

生産性を向上させるのは誰も否定しない良いことなので、進めるべきなのだが、国がリードするなら日本はどのような生産性向上を目指すのかを明確に打ち出したほうが良い。

1.インプットを増やして、アウトプットは更に増やす
2.インプットを減らして、アウトプットは保つ
3.インプットは保ち、アウトプットを増やす

現状は2に近いのではないだろうか。ここで少し生産性の定義から考察してみると、例えば設備投資をして労働者の生産性を向上させた場合、その設備を販売している企業の売上があがることで生産性の向上にも寄与する。よって、生産性向上に関わる投資は雪だるま式に生産性向上をもたらすのではないだろうか。これは暴論か?

また、生産性に関して重要な観点として、誰の生産性?という議論をすべきだと思っている。誰というのは、個人・チーム・企業・社会などだ。

例えば、個人の生産性として分かりやすくソフトウェアエンジニアの場合を考えると、コーディング能力(設計力、タイピングスピード)が生産性に寄与する。これは個人が能力を研鑽して高めることにより生産性を向上させることができるが、そもそもそのコーディングにより生み出されるアプリが全く売れなければ個人の生産性は高くても、企業の生産性は0で、最終的な生産性も0になってしまう。

よって、現状の生産性が低いと言われている状況はどのレイヤーの生産性が低いのかを考えることが大切ではないだろうか。

肌感覚としては、

個人>チーム>企業>社会


という順で生産性が低くなっている気がしている。正直、日本人の個々人の生産性はかなり高い。国際会議などに行って、Masterの学生を比較するとそれはよく分かる。

ところが、企業レベルで比較すると圧倒的に低い印象を受ける。そして上位レイヤーに行くほど先程の例のように最終的な生産性に影響を及ぼす。SHARPを見るとそれが如実にわかるが、経営が変わってSHARPの生産性は劇的に向上している。現場の優秀なエンジニアは前も昔も変わらない。

日系企業ではどうも働き方改革が労働時間を減らす、でもアウトプットは保つように個人個人努力しろという風潮が見られる。この点に関しては前のnoteやtwitterで書いたように、

日本企業では上位レイヤーの組織や制度をデザインすることで生産性を高めようという意識が低いことが原因だろう。しかし、個人のモチベーション向上ややり方改善では限界があるのだ。よって、全レイヤーで生産性向上が議論されることを願う。


5.人間理解と部分/全体両睨み

「そもそもこの国は生産性という言葉をしっかりと理解しているのだろうか?」by 村上臣氏

この言葉はこんなことも示唆している。働き方改革の本質は何か?生産性の本質は何か?特に仕組みやルールをデザインする上では重要だ。

この国は最も重要なルールである法律を作る国会議員ですら本質を見抜いて議論する能力が無いことで有名だが、企業ではそんなことのオンパレードだ。

目的と手段の違いすら見えていないようなものや、周辺への影響を考えられていない本質を見落としているものが見られる。

最も良い例が身近に転がっていたので紹介する。自宅の近所に日本を代表する企業があるのだが、その企業がある時企業イメージの向上や健康経営(これも流行り言葉で要注意)の観点から敷地内全面禁煙という施策を打った。しかし、この実装されたルールは周辺環境への悪影響を及ぼした

どうなったかと言うと、幼稚園児が遊ぶような近所の公園で喫煙(禁煙ではないから条例違反等ではないと思われる)する人や、ファストフード店の外に置かれた喫煙所に人がわんさか屯するような事態を招いたのだ。

これにはミスが2つある。

・人間の行動様式はそんな簡単に変えられないこと
・企業は大企業になればなるほど地域と密接に関わるため部分最適は全体最適をもたらさないということ

を認識できていなかったことだ。

まず、禁煙と言われてもじゃあルールだからといって禁煙できる人は少ないだろう。ここも人間理解が低いし、会社で吸えなくなった人たちはどうするのだろうという予測が無い。確かに、会社内で吸う人は居なくなったかもしれないが、その人達を周辺環境が吸収していて、全体を見ればそれを会社が吸収しているほうが良いはずだ。その人達はその会社で働いているのだから。

最近シリコンバレーでは、社員食堂の無料化が禁止されようとしている。会社としては社員食堂を無料にすることで、魅力的な会社としてアピールできるし、多くの時間を社内で過ごさせることができる。しかし、Facebook等の大企業で働く社員が外で食べないことになり、周辺環境にとっては経済面で不健全な状況になっているという。

正直このニュースを聞いた際、周辺レストランはその社員食堂に売り込むとかすればよいのでは?とか、社員食堂まで政府に規制されるのか!?とか思ったが、カリフォルニアではその部分最適は許されないことになる予定だ。それだけ企業、特に大きくなればなるほど周辺環境への影響が大きくなるので部分と全体を両睨みする必要がある。

繁華街においても警察は部分部分では取締を緩くしてしている。これは人間の行動様式への理解と全体最適を優先してのことだ。東京オリンピックに合わせて変化することも予想されるが。

よって、少し仕組みやルールをデザインする上では本質を見抜くことが重要である。その本質とは、対象者の行動様式や、部分と全体を両睨みすることである。


6.社員への信頼

「働き方改革を進める上で、社員への信頼も重要になる。日本の場合は性悪説に立って仕組みが作られていることが多い。」by 河原あず氏

Twitterにも書いたように、会社は義務教育の中学校ではなく会社が設定したフィルターを通過した人間が入ってくる場所だ。

だから、なぜ性悪説に立つのか?信頼できない社員をなぜ取るのか?という素朴な疑問が湧く。Googleでは、社員がクレジットカードを渡されて、業務に必要なモノを買うことができる。そこには社員への信頼があり、実際それを悪用する人が全く居ないわけではないだろうが、承認にかけるコストよりも圧倒的に生産性が高いという経営判断がある。

日本企業においてもこういった取り組みが多く実装されることが生産性向上や社員のモチベーション向上に寄与するだろう。


7.働き方を選ぶことは脳への負荷がかかることでもある

「働き方改革で働き方を選ぶようになりますよね」by?

働き方を選ぶにはまずは制度やルールの中に選択肢が存在していることが大前提となるが、ここではそれを会社側が用意しているとして考えてみる。

会社側から選択肢を用意されて、そこから働き方を選ぶ場合、結構悩んでしまう人もいるのではないだろうか。それは自由度が高ければ高いほど、悩む人は増えるはずだ。

そもそも、自由ということは意思決定のコストが最もかかる状態でもあるのだ。意思決定に明確なルールを設けておくことで瞬間的に決定することができたりするが、基準等がない場合、自分はどうしたいのだろう?という自問から始まる。

自由度が高いことで、意思決定にコストがかかる例はたくさんある。

フリーアドレスのオフィスなどはそうだろう。フリーアドレスは一時期流行ったが(まだ流行っている?)、実はフリーアドレスというのは毎回どこに座ろう?という意思決定のコストがかかるもので、大体自分はこのあたりに座るという習慣的なものが生まれることが多い。そして、ハイコンテクストな日本では、それを周囲も察知してフリーアドレスなのに実態はほぼフィックスアドレスということもあるのではないだろうか。これを打ち破ってKYと呼ばれるなんてことも想像できる。アメリカ人からしたら狂気の沙汰だろうが。

私の会社はフリーアドレスではないが、時間をずらして食堂を利用する際はだいたい決まったエリアを選んでしまうし、イベントなどで席は自由ですと言われると結構どこにしようか迷ってしまう。

実際、イベントの日も到着時はまだ空きが多かったためどこに座ろうかと悩んでしまった。あずさんからの”前の方に座って”という意思決定をサポートする力が働いたため選択肢は狭まり、ある程度限られたエリアの中から選択することができた。

他にも就活時の服装自由という言葉も学生には負荷がかかる言葉だという。自由と書いてあるのだから、自由に行けばいいのにと私は思うが、実はとてつもない負荷をかけているようだ。そして、日本は同調文化だから周囲がどうするかを必死に探って、周囲がこうだからという意思決定の基準に伴い決定するそうだ。

よって、制度やルールを与える側はそれが受け手側にどの程度の意思決定コストを払わせることになるのかも考慮してデザインしなければいけない。自分の意志(意思決定の基準)がはっきりしている社員に対しては自由度は高めればよいし、そうではない社員に対しては自由度は高すぎず提供することがポイントだ。

高すぎずというのはどれくらいだろうか?もしかしたら既に心理学実験等で検証されているかもしれないが、直感的には3択程度が良いのではないだろうかと思っている。大体ランチも2,3種類が定番だ。


長々とイベント感想文を書いてしまったが、仕組みやルールをデザインする側の人に読んでもらえることができれば幸いである。

ちなみに私は意思決定の基準がはっきりしているため、自由度が高いことを臨んでいる側の人間だ。


Photo by Vadim Sherbakov on Unsplash


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