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「日本人が世界進出するにはITより飲食」と多くの起業家が言い始めた件について

 最近、Xを見ていると起業家による「日本人が世界進出するにはITより飲食」という呟きが増えてきたように思う。2年ほど前から飲食事業の計画をしていた私からすれば、周回遅れの予測というかそういう印象なのだが何故今になって多くの人間がそれについて言及し始めたのか、またその真意と注意点について経験則で綴ってみる。

 そもそも、IT業界より飲食業界の方が日本人として勝ち筋があるというのは、一年前『これから世界で勝負をするならIT分野ではない理由』という記事でも私は発信していた。

 そこで綴っていたのはグローバルでみるIT産業への投資額、エンジニアの給与水準からみると優秀なIT開発人材が日本に残るもしくは来る流れは当分見えないということ。また、日本が輝かしかった80〜90年代の時代はとにかく日本しかできない、日本が優位となる産業へのフル投資でこの国が繁栄した事を考えると、超絶レッドオーシャンのIT産業よりは日本人として強みを活かせる産業への投資がより重要である事を言及した。

 しかしこの記事を投稿した後、何人かの読者より“共感できるがどの産業もIT技術を捨ててはこの先ビジネスとして成り立たないのでは”との意見をいただいた。その通りである。私が言いたかったのは、ITの技術先行で何かサービスを組み立てGAFAMのようなビックテックを作ろうとするより、それを駆使して日本が強みとする別産業への投資を行うべきということである。または、AIブームにおいて大躍進しているNVDAに半導体部品を提供している信越化学、ディスコといったゴールドラッシュ時のリーバイスのような立ち位置も日本のものづくり環境を考えると面白いだろう。しかし、こういったビジネスは初期投資もかかる上、to Bやto 政府機関になると政治や覇権争いなど様々な要素が絡んでくる為中々グローバルシェア獲得は難しい。

 誰でも簡単に入り込めるという観点ではもっと他のマーケットがあると思う。その例えの一つとして、本題の飲食業界が挙げられる。飲食業と言うと大昔から誰でもできる商売の一つとして知られている。美味しいものしか作れない人間、もっと言うと美味しいものさえも作れないのに自分ができる事が料理しかない為起業したみたいな人間が多い。IT技術は勿論無知な上、マーケティングやファイナンスなどビジネス構想も何も知らない経営者が山ほどいる。実際私が飲食を始めてつくづく感じるのが、そういう経営者を狙って物凄い数の営業が飛んでくるのだ。

 そこにITや他業界の経営経験者などが入っていくと面白い。というのが私の見解だ。飲食ビジネスはそもそも原材料費と人件費その両方が必要とされると考える者が多くかなり利益率の低いビジネスになっている。他業界を経験した経営者であればこれがどれほど足枷になるか理解しているだろう。例えば、IT企業であれば初期投資も広告費以外それほどかからない上、その後は人件費が追加されるくらいだ。原材料費の部分が丸ごとカットされる。製造業も原材料費はかかるものの今や機械による製造管理が主流になり人件費も大幅にカットされた。

 いわば飲食業界のみが原材料費と人件費の両方をカットできていない後進業界なのだ。私はこの後進の飲食業界には特に日本という国では改善余地があり寧ろチャンスだと思っている。グローバルで見ると人件費はAIロボットが将来的には大幅な削減に貢献するだろう。ファインダイニングであろうとも接客するのは自由自在に言語を操る事ができるAIロボットであり、皿洗いや掃除等雑用も容易にこなすだろう。

 一方で原材料費はどうだろうか、私は原材料費カットの観点では日本人に軍配があると考えている。サイゼリアの創業者正垣氏の有名な著書に『美味しいものが売れるのではない、売れているのが美味しいのだ』というのがある。あの企業のコストカット術は言うまでもなく素晴らしい、ワインが300円で飲めたりステーキが600円で食べられたり他競合はお手上げなのでは無いだろうか。

 何事も丁寧に作り上げる日本人が販売価格300円のワインや600円のステーキを作らせてもかなり質が良いわけだ。ではこれが単価が高いファインダイニングで考えるとどうだろうか。そもそも皆さんはファインダイニングのコースが何故300ドルや500ドルもしくはそれ以上にも高価なのかその理由をご存知だろうか?

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