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『危いことなら銭になる』(1962年・中平康)

 エースの錠こと宍戸錠は、小林旭の「渡り鳥」「流れ者」、赤木圭一郎の「拳銃無頼帖」シリーズの好敵手役で、コミカルなテイストも適度に交えて、圧倒的な存在感をみせていた。昭和36(1961)年はじめ、そうした作品での活躍が観客に受けて、全国の映画館主たちの要望もあり、石原裕次郎・小林旭・赤木圭一郎・和田浩治の“日活ダイヤモンドライン”参加が内定していた。ところが裕次郎のスキーによる骨折事故、赤木圭一郎の夭折が重なり、そのタイミングで公開された錠の初主演作『ろくでなし稼業』(3月12日・齋藤武市)がスマッシュヒット。 

  ここで日活は、裕次郎・赤木の穴を埋めるため、宍戸錠のアクション・コメディを大きな柱にしようと、すぐに姉妹篇『用心棒稼業』(4月23日・舛田利雄)を製作。「稼業」シリーズでは、相棒役に二谷英明が続演するも、二谷が錠とともに第二期ダイヤモンドラインに参加して主役に昇格したため、第3作『助っ人稼業』(6月11日・斎藤武市)では、長門裕之が相棒役をつとめ、コミカルな味をみせた。

 この『危いことなら銭になる』が公開されたのは、それから一年半後の昭和37(1962)年12月1日。その間、アクション・コメディ路線は、次第にコミカルな味は抑えられ、普通の活劇に引き戻されていた。宍戸錠は、この年9月30日公開の、蔵原惟繕監督、芦川いづみ共演の『硝子のジョニー 野獣のように見えて』で寡黙で粗野な主人公を演じ、そのワイルドな演技で新境地を開拓した。

 錠にとっても『危いことなら銭になる』は、久々のアクション・コメディということになる。主人公・近藤錠次のあだ名が“ガラスのジョー”は、もちろん『硝子のジョニー〜』のパロディ。相棒の“計算機”こと沖田哲三には、『助っ人稼業』以来の長門裕之。それまで「稼業」シリーズのように“バディ(相棒)もの”が多かったアクション・コメディだが、ユニークなのは、草薙幸二郎扮する“ダンプの健”こと芹沢健が加わり、さらに浅丘ルリ子扮する元気いっぱいの女子大生・秋山とも子が、三人組と渡り合う“チームもの”になっていること。ルリ子のコメディエンヌぶりは特質モノ。

 男三人組に、美貌のヒロインのチームといえば、モンキー・パンチの「ルパン三世」を連想させるが、ルパンが登場するのは、もう少し後の昭和42(1967)年になってから。しかし本作のテイストは実に「ルパン三世」っぽい。ベテラン池田一朗と共に、脚本を担当した山崎忠昭は、1971年「ルパン三世」第一話「ルパンは燃えているか・・・!?」から、アニメ版に参加することとなる。

 原作は都筑道夫の「紙の罠」。日活では、本作を皮切りに宍戸錠の『怪盗X 首のない男』(1965年・小杉勇)、小林旭の『俺にさわると危ないぜ』(1966年・長谷部安春)と、都筑原作の映画が三本作られている。東宝で脚本も手掛けた『100発100中』(1965年・福田純)『同 黄金の眼』(1968年・福田純)もまた「ルパン三世」を思わせるテイストがあり、本作をはじめとする和製アクションが与えた影響を考えるのも、遅れて来た世代の楽しみの一つ。

 なんといっても、本作の痛快さはモダニスト・中平康監督のセンスによるところ大。巧みなカット割や編集によるテンポ、裕次郎の『あした晴れるか』(1960年10月26日)でも試みていた速射砲のような会話で、歯切れ良く場面を進めていく。

 また、すべてをさらってしまうのが、贋札作りの名人・坂本雅章老人・左卜然と、その妻・武智豊子。新宿の“バーレスク劇場ムーランルージュ”出身の左卜然と、浅草の“エノケン一座”出身の武智豊子、この二人は、ある意味最強。拉致され、贋札作りを強いられても「ゴミゴミして、うるさくて、色っぽいところ」でないと仕事が出来ないと言い出す名人。意外や意外ガンマニアのお婆さん。主人公と悪の一味は、とことん二人に振り回される、

 主題歌「危いことなら銭になる」は、詩人・谷川俊太郎が作詩、日活映画を支えたギタリストで作曲家の伊部晴美が作曲、そしてマーサ三宅(三宅光子)が唄っている。また、キャバレー・アカプルコ近くの公衆電話で、“ポーカーフェースの秀”(平田大三郎)が電話をかけるシーンで街角に流れているのが、この年大ヒットした植木等の「ハイそれまでョ」。まさしく映画は時代を映す鏡でもある。

 この頃は、空前のガンブームで、マニアックな拳銃の話題や描写も多い。横浜中華街のとある中華料理店の地下が秘密拳銃市場というのは、これぞ日活アクション。密売人の政やん(井上昭文)とジョーの会話には“トカレフ・オートマチック”“ラドムM30”といったキーワードが飛び交う。ガン=カッコいい。男の子の憧れだった時代でもある。

 カッコいいと言えば、ジョーが乗っている車。真っ赤なメッサーシュミットKR200は、ドイツのフリッツ・フェンドという技師と、第二次大戦で活躍した戦闘機を製作したメッサーシュミット社が産み出した、三輪自動車。当時、宍戸錠の愛車だったという。人目を引くユニークなデザインが印象的で、テリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』(1985年)などにも登場する。

 宍戸錠×中平康による『危いことなら銭になる』は、観れば観るほど、楽しい発見がある“日活アクション・コメディ”の快作である。


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