『山と川のある町』(1957年2月12日・東宝・丸山誠治)
秋田県横手市を舞台にした、石坂洋次郎原作『山と川のある町』(1957年2月12日・東宝・丸山誠治)をスクリーン投影。
義母が横手の出身で、舞台となる高校に在学中、ロケ隊がやってきて、撮影のことをよく覚えておられていて、ならばと初見のカミさんと一緒に。石坂洋次郎の朝日新聞連載小説を松山善三が脚色。『若い人』(1937年・東京發声・豊田四郎)以来、連綿と映画化されてきた石坂文学の世界を堪能した。
宝田明さん、雪村いづみさん、小泉博さん、いずれもお世話になった方々ばかり。それに、石井伊吉さん! 横手の風景で繰り広げられれ、石坂洋次郎文学ならではの世界が展開される。古い価値観と戦後民主主義。だれにも、欠点があるが、それをリカバーする良いところもある。新旧の対立だけでなく、一人一人が悩み、それをお互いが補完して、ポジティブに生きていく。
それが石坂作品の「爽やかさ」「清々しさ」の印象となる。ヒロイン・早川のぶ子(雪村いづみ)の父・佐太郎(志村喬)は、暴君で妻妾同居しようとして、娘に「不潔」だと言われて、娘に手を上げる。しかし、のぶ子は怯まず、家出をしようと即行動。
教師・八木敬助(宝田明)は、一見、完璧なナイスガイだが、その実、何事にも曖昧な自分に辟易している。同僚の菅原正吾(小泉博)も、母・たま子(三好栄子)と妻・みね子(津島恵子)の間で、何も出来ずに煮え切らない態度。
そんな夫に少しだけ辟易しているみね子は、八木敬助になんとなく惹かれていて、敬助も満更ではない。不倫というのではなく、好意を寄せているだけ。
そんな曖昧な男たちに比して、のぶ子はポジティブ。自分で思ったことを、次々と行動で示していく。
彼女の母・豊子(花井蘭子)は、リウマチで療治のために温泉で逗留。心細いだろうと、父の愛人・お直さん(村田知栄子)が、見舞いにやってくる。雪村いづみは、それが許せないが、豊子とお直さんが心を通わせて行くシーンがいい。
学園ものとしては、アルバイトでのぶ子の家庭教師をしている菅原先生、テストの問題をのぶ子に漏らしたのではないかとの疑惑が持ち上がり、同級生の吉沢(石井伊吉・現在の毒蝮三太夫)たちが、教員室に忍び込む。菅原先生の引き出しから答案を盗み出してそれを確認しようとする。それに対して、のぶ子の幼馴染でもある田村甲吉(山田真二)が「アンフェアだ」と反論。そこで吉沢と甲吉が「相撲で勝負」することに。学校の裏山での喧嘩は、のちの「青春学園もの」での定番となるが、本作はそのルーツでもある。圧倒的な強さの甲吉に、吉沢は屈して、二人は仲直り。結局、答案用紙は甲吉が戻しにいく。その爽やかさ。
というわけで、さまざまなエピソードに、モラル、アンモラルに惑いながらも、前向きに生きていく主人公たち。石坂洋次郎映画ならではの味わい。松山善三の脚色も素晴らしい。
近々、横手に行ってロケ地巡りをしよう!という話に。これも時層探検の楽しみ!