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『嫁入婿取花合戦』(1949年1月11日・新東宝・齋藤寅次郎)
齋藤寅次郎監督研究。昭和24(1949)年1月11日公開『嫁入婿取花合戦』(新東宝)をスクリーン投影。エンタツ・アチャコ、柳家金語楼によるアチャラカ喜劇だが、ユニークなのが昭和23(1948)年の大晦日の昼から元旦にかけての「年越し」だけの物語であること。
製作は青柳信雄、脚本は八住利雄。この時期の齋藤寅次郎作品を支えたメンバーである。監督でもある青柳信雄は、プロデューサーとして新東宝設立時から娯楽映画企画、製作を手がけていた。チーフ助監督は松林和尚(松林宗恵)である。
質屋の柳屋金助(柳家金語楼)は、ケチだが無類のお人良し。倅・新吉(坊や太郎)に小言を言いながらも、商売第一の帝王学を教育している。大晦日に、上着を質入してきた、太陽劇場(日劇にマット合成で増築^_^)の駆け出しダンサー・道夫(キドシン=木戸新太郎)が二千円を希望しても千五百円値引きして、五百円しか渡さない。道夫の上着に、松竹梅アパートに住む恋人・下村菊枝(水原久美子)あての手紙を発見、その文面をみて、菊枝に自殺でもされたら大変!と、金兵衛。商売もそっちのけで、菊枝に、手紙を渡すべく、面識もない菊枝探しに奔走する。
大晦日の質屋は、年越し資金を作るために、沢山のお客さんがやってくる。しかし、金兵衛、人助けが優先と、客を待たせたまま、師走の街へ飛び出す。これがおかしい。金兵衛が店に戻るたびに客が増えて、店の前には、行列を整理する警官まで出動。自分の家に入ろうとする金兵衛にも「並びなさい」で、なかなか家に入れない。
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手紙の宛先、世田谷区の松竹梅アパートを探す金兵衛。邸宅の前に立つ、主人らしき男(山田長正)に、アパートの場所を聞くも、要領を得ない。ようやく、指差す方向に「松竹梅脳病院」とある。金兵衛、門の前にいる水商売風のオバさん(鳥羽恵美子)に、アタマをピシャリ、ピシャリと叩かれる。このギャグ、当時は大爆笑だったろう。
東京裁判で、大川周明が東條英機のアタマをピシャリと叩いたハプニングのパロディ。主治医の内村祐之により、大川周明は梅毒による精神障害と診断された。で、「松竹梅アパート」ではなく「松竹・梅脳病院」である。これまた現代では、コンプライアンス上、問題アリだが、昭和24年の寅次郎の戯作感覚!すごいなぁ。
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ヒロイン菊枝(水原久美子)の田舎の父・下村花兵衛(花菱アチャコ)は、キャバレー勤めの娘の男性関係が心配となり、探偵・横山円造(横山エンタツ)に素行調査を依頼している。そんな花兵衛が、お正月は娘と過ごそうと上京。「松竹梅アパート」にやってくるが、どうにも彼氏の存在が気になって、娘がアパートの管理人(小倉繁)と話をしている隙に家探し。
松竹蒲田時代から、寅次郎映画に主演してきた小倉繁がポイント・リリーフ的に登場。戦後の寅次郎喜劇でもお馴染みの顔となる。菊枝は、壮年で意気軒高の父のためにお嫁さんを世話してもらおうと、出雲女史(清川虹子)の結婚相談所に相手探しを依頼する。しかし、花兵衛は、田舎で面倒を見てくれている、おまさ(一の宮あつ子)と結婚の約束をしていた。
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さて、迷探偵・横山円造は、万年貧乏をしているが、久々の依頼で張り切って、菊枝と道夫のランデブー現場を写したカメラを、金助に質入しているので、無一文だけどなんとか受け出したい。そこで受け出し交渉するも、ケチの金助は取り合わない。で、結局、金助の探している下村菊枝を、横山探偵が調べていることを知って交渉成立。
菊枝の勤め先を知っていると、金助をキャバレーで奢らせる。そこで菊枝の友達の歌手・渡辺はま子が登場。艶かしく一曲披露する。しかし、菊枝は父が上京しているので、今日は店を休んでいると聞いてがっかりする金助。
さて、花兵衛が泊まっている「極楽旅館」の女中になんと、女優時代の石井ふく子先生が出演! ほとんどロングショットだが、エンタツとの絡みで一瞬、その顔がはっきりと映る。
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さて、この映画の中心は金助の質屋である。菊枝も恋人・道夫のために、花兵衛から貰った晴れ着(実はおまさが作ったもの)を質入している。道夫は、田舎の母・おまさに仕送りするために、お金の工面が必要だった。というわけで、アチャコが一宮あつ子にお金を出して晴れ着を作らせ、その晴れ着を質入れして、道夫の母への仕送りにあてていた。という循環がおかしい。で、おまさの息子が、自分の娘の恋人だと知って、大喜びの花兵衛。全ては自分のお金がぐるぐる回っていたのだと、最後に大笑い。
と、最初からハッピーエンドが約束されているのだが、金兵衛の善意、エンタツ探偵の行状が事態をややこしくしていく。賑やかで、場当たりの展開だけど、エンタツ、アチャコ、金語楼の右往左往を眺めているだけでも楽しい。
清川虹子は、結婚相談所の所長・八雲女史。お見合い相手は、写真ではなく、額縁に女性を立たせて、男性客に開陳する。つまり、秦豊吉考案のストリップ「額縁ショー」のパロディである。昭和22年(1947)1月15日、東京新宿の帝都座で「名画アルバム」と題した日本のストリップショーの始まり。これまた時事ネタ。ストリップで扇情的なダンスは当局に禁止され、ならば泰西名画のように、女性に絵画のように半裸で立たせてポーズをさせたのが大受けしていた。
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川田義雄は、唄う占い師。得意の川田節の文句は「ラメちゃんたら、ギッチョンチョンで、パイのパイのパイ」と「パイノパイノ節」のフレーズ。ダイナブラザース結成前、川田晴久に改名する直前。美空ひばりを発見した頃の川田義雄の唄が堪能できる。
他の寅次郎映画同様、ほとんどロケーション場面はない。トップシーン、有楽町から数寄屋橋を望む、お馴染みのショット。省線(山手線)が有楽町駅に差し掛かるカット。日劇の部分に、マット合成で建物を書き加えて、キドシンが出演している「太陽劇場」としている。
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劇場のステージでは、キドシンこと木戸新太郎が、ローラースケートによるアクロバットダンス、白いタキシードのタップダンス、女性とのデュエットダンスを披露するシーンがある。アクロバット・ダンスは、キドシンが売れるきっかけとなったものだけに、なかなか。タップダンスは上半身と脚をカットで割っているので、おそらくは吹替え。戦後喜劇映画のバイプレイヤーの印象が強いキドシンだが、最初は、寅次郎監督の『誰がために金はある』(1947年・新東宝)の主役として大々的に売り出された。
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ラストは、キャスト全員が貸し切りバスに乗って、富士山に向かっての旅行。そこで川田義雄、渡辺はま子が歌って、全員のラインナップ。画面の向こうには立派な富士山。めでたしめでたし、である。
新東宝データベース1947-1962
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katsubenwagei@gmail.com
2023年1月21日(土)齋藤寅次郎監督のお住まいだった成城・一宮庵(いっくあん)で<キング・オブ・コメディ 映画監督・齋藤寅次郎を語る2023 ザッツ・寅次郎・エンタテインメント! VOL.1>を昼夜開催、こうした戦前作から戦中、戦後の齋藤寅次郎監督の映画人生と、笑いの足跡をたどります。
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