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 『幕末太陽伝』を最後に、日活を飛び出した川島雄三が、東宝傍系の東京映画で『女であること』(1958年)の次に、やはり東宝傍系の宝塚映画メガホンをとった文芸映画。山崎豊子の小説「暖簾—浪花屋利兵衛物語—」を舞台化した菊田一夫の戯曲を原作に、八住利雄と川島がシナリオ化。

 大阪の昆布問屋に、淡路島から出てきた少年が丁稚奉公し、やがて「暖簾」を貰い独立する。夫婦二人三脚で店を大きくしていくが、戦争で丸裸となる。しかし、戦地に行った息子が戻って来て、焼け跡から再スタートする。大阪にある老舗・小倉屋の「をぐら昆布」は、日本を代表する昆布のブランドとして知られ、暖簾分け制度で、それぞれが独立している。

 その中の一店をモデルに描いた小説はベストセラーとなり、昭和32(1957)年に4月に、東京日比谷の芸術座のこけら落とし公演で上演されるなど森繁久彌は主人公・八田吾平を舞台で演じており、その映画化として舞台のイメージそのままにキャスティングされた。

 三十五銭を握りしめて、淡路島から大阪に飛び出してきた吾平少年が、ふとしたことで昆布屋の主人・浪花屋利兵衛(中村鴈治郎)と知り合い、丁稚となる。利兵衛から徹底した商人教育を受け青年となった吾平は、暖簾分けを受けて独立することに。子供の時から意中の人だと思っていたお松(乙羽信子)と結婚する事は許されず、利兵衛は姪の千代(山田五十鈴)と無理矢理祝言を揚げされる。夫婦で苦労を重ね、店を大きくしていく吾平。しかし、敗戦で何もかも失ってしまう。

 森繁が吾平と、のんきだがアイデアマンの次男・孝平の二役を公演。前半、苦労して店を立派にして行く吾平と、後半、戦地から戻って来てバラックから昆布屋を再興する現代青年の孝平のタイプの違い。そして戦後篇のコミカルな味は、『わが町』で川島が採用したクロニクルスタイルでありながら、商都大阪商人の風俗史にもなっている。

 クライマックス、株式会社浪花屋の本店オープンの日、不気味に吹き荒れる風は、ラストを予兆させるものであり、川島映画としては『とんかつ一代』のオープニングなどにも継承されていくイコンでもある。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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