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『喜劇 逆転旅行』(1969年8月9日・松竹大船・瀬川昌治)

ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、瀬川昌治監督の人気シリーズ第三作『喜劇 逆転旅行』(1969年8月9日・松竹大船)を綺麗なプリントで大爆笑のうちに鑑賞。

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東映で瀬川昌治監督が、舟橋和郎原作・脚本、渥美清さん主演で撮った「喜劇列車シリーズ」が、企画ごと松竹にお引っ越し。フランキー堺さん主演の「旅行シリーズ」にリニューアル。昭和43(1968)年末に封切られた第一作『喜劇大安旅行』は、もともと渥美さん主演の東映「喜劇新婚列車」企画がスライドしたもの。

第1作『喜劇 大安旅行』では新珠三千代さん、第二作『喜劇 婚前旅行』では野添ひとみさんが第一マドンナを演じていたが、今回は佐藤友美さん。このシリーズは、主人公の専務車掌(または駅員)のフランキー堺さんが第一マドンナに思慕を寄せて七転八倒するも、そのフランキーさんを惚れぬいて追いかけてくる第二マドンナの倍賞千恵子さんの可愛さとコメディエンヌぶり!

本作では弘前のギター芸者!・さくらをイキイキと演じている。『男はつらいよ』第一作公開3週前での「さくら」というネーミングは一瞬「え!」となるが、すでに『男はつらいよ』は完成。撮影はこちらの方が後になる。ただ同じ「さくら」でも、健気な寅さんの妹とは大違い!

こんなに可愛い倍賞さんに惚れられて逃げるなんて勿体ない!と誰しも思うこと。が、これが瀬川監督の狙いで、その原点は、ケーリー・グラント主演のハリウッド喜劇『独身者と女学生』(1947年)がそのルーツ。マーナ・ロイの女性判事に心を寄せているケーリー・グラントの検事補が、判事の妹の女学生・シャーリー・テンプルに追いかけ回されるロマンチック・コメディ。瀬川監督はこれがお気に入りで、それが「旅行シリーズ」に生かされている。

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東北本線急行の専務車掌・長谷川吾一(フランキー堺)は、弘前の料理学校の先生・原かおり(佐藤友美)に恋をして、料理学校に通う日々。そんな吾一に、幼馴染の美人芸者・さくら(倍賞千恵子)は夢中で、今でいうストーカーに近い行動で、料理学校にまでついてくる始末。

吾一の家に下宿している若い車掌・木下信作(森田健作)は、食堂車のウエイトレス・矢代綾子(早瀬久美)と恋仲。のちに「俺は男だ!」でカップルとなる森田健作さんと早瀬久美さんのフレッシュカップルが、東京でデートするのは赤坂プリンスホテル・プール。通称”赤プリ湖”。そのプールサイドで、お色気たっぷりに「お熱いほうが好き」を歌うじゅんとネネ。ああ1969年!

綾子と信作の交際に猛反対なのが、綾子の父で食堂車の主任・矢代大吉(伴淳三郎)。国鉄退職後、列車乗務を続けたくて日本食堂に入社。吾一とは犬猿の仲だが、良き先輩後輩である。この「国鉄マン魂」は、東映の「列車シリーズ」から通底していて、ギャグ満載の喜劇映画のなかで「物語の真面目な芯」となっている。

おかしいのは、吾一の母・長谷川みね(ミヤコ蝶々)。信作たちの交際を認めさせようと矢代家に乗り込むが、大吉と酒を酌み交わすうちに、大吉と婚約してしまう。ミヤコ蝶々さんが恋する乙女の仕草をするのが実に可愛い。シラフになった伴淳さんは、ほんの冗談と、その婚約をなかったことにしようとするが、蝶々さんが本気になって・・・

伴淳さんが家に来ると、ソワソワニヤニヤ、大照れの蝶々さんの乙女な感じが可愛い! 髪飾りをつけ、三つ指をついて、食べかけのスイカを削いで、お客さんに出すギャグは最高!

いつもの「旅行シリーズ」のように、シチュエーションの笑い、スラップスティックな視覚ギャグ、下ネタなどの塩梅が見事。藤村有弘さんのインチキくさいフランス料理の先生の「ムニュー(メニュー)騒動」。唄子啓助さんの「ハエ騒動」。由利徹さんの「クレーマー」。世志凡太さんの「森進一ネタ」などなど。瀬川喜劇の面白さが充満している。

なんといってもクライマックス、飯坂温泉での「夢のシーン」。その前振りに出てくる鶴岡雅義と東京ロマンチカの「君は心の妻だから」の歌唱シーンから、温泉の中から浮上する三條正人さんたち! 説明不能のおかしさ。

歌のゲストはもう一人。弘前→秋田間のお座敷列車で歌う都はるみさん! 最初から最後まで笑いっぱなし。DVD化されてないのがもったいない!

フランキー堺さんとミヤコ蝶々さんが、茶の間のテレビで観ているのは松山容子さん「めくらのお市」。テレビ版がスタートするのは1971年なので、劇場版を観ていることになる。ラピュタ阿佐ヶ谷で近々、シリーズをレイトショー上映されるので、告知効果もあり、不思議な気分。

1970年代、松竹喜劇の時代を「男はつらいよ」とともに牽引していった、瀬川昌治監督の「旅行シリーズ」。オールタイムで面白いのなんの!

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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