ことばについて探究する人間(4,000字)
中学校・高等学校国語科教育論の入門的内容であり、詩の授業方法論です。中等国語科教育法で「国語科の学習をつくるための重要事項を考える」と題して行ったこともあります。谷川俊太郎「はる」を取り上げていますが、別の詩教材を使うこともできると思います。
この文章は、2021年3月に佐賀県中学校教育研究会国語部会が発行した『創立六十周年記念誌』に特別寄稿として掲載されており、それが初出になります。掲載にあたり、加筆し、「わたしはいつまでものぼってゆける」と改題(「はる」の一節です)しました。
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1 谷川俊太郎「はる」を読む
中学校国語科用に編修されたある教科書の冒頭に、谷川俊太郎の詩「はる」が載っています。「はなをこえて/しろいくもが」ということばから始まる、十行の詩です。もし、あなたが中学校一年生の教師なら、この詩をどのように教えたいですか。
今回は、この詩でどのような授業をするかを考えます。そのことを通し、国語科の学習をつくるための重要事項は何かという問いに暫定的な答えを出してみましょう。とはいっても何も手がかりのない状態で考えるのは大変です。そこでまず、詩教育に関する先行研究を読んでみましょう。
「生きた詩」という表現に注目してください。詩は、生きている。文学は、生きている。ことばは生きている。――この比喩によって、筆者はどのようなことを言おうとしているのでしょうか。
また、「一つの詩を読み込む」という表現にも注目してください。筆者は、一つの詩を読み込む活動そのものは否定していません。しかし、読み込む活動によって苦手意識が生まれては、授業で詩を扱う意味はないどころか、むしろ逆効果だと述べています。
この指摘を踏まえ、さっそく詩の授業をつくってみましょう。
問1 「はる」を三回音読しよう。
問2 「はる」をノートに書き写そう。その際、あえて、ひらがなを漢字に変換してみよう。
問3 50分完結の授業とします。「はる」の授業で主に何をするか、書き出してみよう。
資料1 教科書教材
谷川俊太郎「はる」
学校図書『中学校国語1』2015年検定版
2 詩の授業スタイルを考える
次に、詩の授業方法に関する研究を読んでみましょう。
図1は、詩の授業スタイルをまとめたものです。「単独型」は詩教材を一つ取り上げる授業、「複数型」は二つ以上の詩教材を組み合わせる授業です。これを踏まえ、次の問いに取り組んでみよう。
問4 いまあなたがつくった授業は、図1のうちのどこに分類できそうですか。自分のイメージに一番近いものを選んでください。
問5 <他の人が考えたアイディアのリスト>を下に掲載しました。同じように分類してみよう。
問6 問1~問6までの作業の中でどんな疑問が浮かびましたか。5個書いてみよう。
問7 5個の疑問のうち、とくに解決したい2つはどれとどれですか。
<他の人が考えたアイディアのリスト>
どんな「はな」なのか、「ふかいそら」とはどんな色なのか、「わたし」は「かみさま」とどんな「はなし」をしたのかなど、想像力を膨らませて、いろんな意見を集める。
まず一人で黙読をする。次にクラス全員で音読をする。そしてノートに詩を書き写す。連ごとにどんな情景が浮かび、作者はなぜ漢字ではなくひらがなで書いているのかを問う。
「はる」ということばを聞いてイメージするものは何かを各自考え、「はな」・「くも」・「そら」と位置が上がっていく様子から、「わたし」の心の様子を想像する。
初見で「はる」を黙読し、それから自分なりの「はる」の読み方を考え、その時どんな感情なのか、どんな風に読むのかを考えて、音読してもらう。そして、生徒同士で意見を交わしてもらい、作者が何を伝えたいのかを考えてもらう。
まずは音読してもらい、感じたことを出してもらう。詩について意見を出し合った後に、題名の「はる」について考える。
この詩を黙読・音読させ、詩の中の「わたし」を自分自身に置き換えて感じたことを生徒らに尋ねる。出された意見を詩の形式的なもの、または情景的・感情的なものに分類し、詩を様々な方向から味わえることに気づかせる。
自分なりに詩をつくってみるなど、創作活動を取り入れてみるのもいいかもしれない。
実際に感じることができるように、外に連れ出してみて、シートの上などに寝転がらせて空を見上げさせてみるなどする。いちど感覚的に情報を得た後だと、詩を見ても感じ方が変わると思う。そのあと、どう感じたかを話し合ったり、絵や文など、好きな自分の表現方法で感じたことをお互いに共有してもらってもいいかなと思いました。
この詩を読んでどのようなイメージを感じたか、また作者はこの詩をいつ、どこで、何をしながら作ったのかを子どもたちに話し合わせる。
「はな」を出発点として「かみさま」にたどりつくまで、どのくらいの時を経ているのかを根拠をつけて発表してもらうと面白いと思います。
3 言語活動と国語科の目標の結びつき
授業で何に取り組ませるかを考えるときには、なぜそれに取り組ませるのかを検討することも大切です。国語科で取り組む言語活動は、ただ単に体験させればよいのではなく、国語科の目標を実現するために行われるものだからです。
中学校学習指導要領で詩に言及されているのは、次の各項目です。これらは言語活動の例ですから、別の活動を使うこともできます。
学習指導要領では、Aは話す・聞く能力、Bは書く能力、Cは読む能力を育てる指導を表します。先ほどあなたが考えた授業は、A、B、Cのどれを重視したものになっていますか。言語活動の領域を意識的に選んだり組み合わせたりすることも、国語教師の重要な仕事です。
4 ことばについて探究する人間の育成
先ほど引用した中井は、中学校段階における詩教育の目標について次のように述べています。
「はる」を読む学習の目標は、「はる」の解釈に関する「一つの答えを求める」ことではなく、「はる」の読みを通して「考え模索する過程そのものを楽しめるようになること」だといえるでしょう。国語科のゴールは、一つ一つの教科書教材を消化していくことではなく、その過程を通して、ことばについて探究する人間を育ててゆくことである。――この認識を手放さないようにすることこそ、国語科の学習をつくるためのもっとも重要な点だと私は考えています。今回のまとめとして、最後に次の二つの問題に取り組んでみてください。
問8 国語科の学習をつくるために重要なことは何でしょうか。きょうの活動を終えて感じていることを書き出してみよう。
問9 谷川俊太郎「朝のリレー」の授業ではどんな言語活動ができそうか、上述した「言語活動例」を参考にして書き出してみよう。
資料2 教科書教材
谷川俊太郎「朝のリレー」
三省堂『現代の国語1』2015年検定版
参考文献
◯田中宏幸(2010)「「詩」の授業実践史」『文学の授業づくりハンドブック第4巻 中・高等学校編』溪水社
◯中井悠加(2014)「詩の学習指導(中学校)」山元隆春編『教師教育講座第12巻 中等国語教育』協同出版