三方の小品【32:ありがとう】
〇〇に入るキーワードは、配信中にスターとコメントのキリバンを取っていただいたリスナーさんにリクエストしていただきました。
鎌倉屋トルテという少女の思い出や、頭の中に触れていきませんか。
ありがとう
ありがとう (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
鎌倉の大通りの桜のつぼみは膨らんで、この週末にはもう綻ぶことでしょう。庭でははらりはらりと舞う花びら一片一片が、意思を持っているかのようにも見えてくる。一年のうちで一番優しくて美しい空気を楽しむことができる季節だ。そんなほのかに色づく五片の花びらを見上げながら、とっぷりとインクを浸したペン先は自然に五文字の感謝の言葉を綴った。
そう、いつだって感謝の気持ちを忘れてはならない。これは固い誓いであり、日々大切にしてきたことでもある。
一瞬一瞬に当たり前などはなく、すべてが”有難い”ことである。しかし……常日頃から伝えるこの想いは、果たして伝わっているのだろうか。ふとした瞬間に不安になる。
そう、雑記帳に思考を乗せたペンを走らせ…否……歩かせながら、視線は虚空を泳ぐ、およぐ。
嬉しい気持ち、寂しい気持ち、楽しい気持ち、悲しい気持ち、愉快な気持ち、怒った気持ち……そして、ありがとうの気持ち。ちゃんと感じた時に伝えないと、今度今度と先延ばしにしていたら、一生”今度”がやってこないとも限らない。
だから私は、”ありがとう”と。ありがたいことだと、心からそう思っているのが伝わってほしいと想いを込めて声に、文字に、載せていく。
こそばゆくて勇気のいる言葉かもしれないけれど、言えなかった、と、これからずっと思い続けるのはもっと嫌だ。
だから私は、火を灯す。あなたがいつでも帰ってこられるように。いつかの約束、果たせるように。
あの日言えなかったありがとうも、いつかあなたに届くように。今日も鎌倉の路地の奥深く、人知れずに灯るこの灯りを見つけてもらえますように。
初出:2022年3月31日
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