三方の小品【31:耳】
〇〇に入るキーワードは、配信中にスターとコメントのキリバンを取っていただいたリスナーさんにリクエストしていただきました。
鎌倉屋トルテという少女の思い出や、頭の中に触れていきませんか。
耳
耳 (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
風が吹いて長い髪をなびかせて。少しかき上げたその横髪を、ひょいと耳にかけてみた。触れた手が少し冷たくてびっくりする。
すぐに両手をこすって息を吹き込む。ぐーぱーぐーぱーと握ったり開いたりするのは”手のトレーニング”として、指の冷えが気になる時には取り組んでいる。しばらくしないうちに、ほどよく温まった手を柔らかく丸く、まるで卵でも包むかのように膨らませ、両耳を覆う。そして、深呼吸。落ち着く時間である。どうもこの少女は深呼吸を好む節があるようだ。
眠るときに、横を向いて眠りたくなるのは、いつか幼き時の名残か。耳が布に触れて包まれていることが、とんでもなく安心するのだ。少しだけ遮られた聴覚、温まっていく感覚、そして目を閉じて呼吸だけを感じているうち……に、もう夢の世界にたどり着いている。眠っている姿はまるで真ん丸の小動物のよう。
鼻腔に抜ける春の潮風を満喫して、そっと耳に当てた手をはずし、いつの間に閉じていた目も開ける。一体どれだけの時間が過ぎたかわからず、ひょいと肩をすくめてみせた少女がくるりと回ればロングスカートは空気を含んで膨らむ。リボンのシューズは小気味よく階段を上っていく。
その耳いっぱいに波の音、人々のおしゃべりの声、風の音、お散歩のワンチャンの声にアンテナを張り巡らせながらゴキゲンリズムで帰途に着く。耳にかけた髪が風に乗ってふわりと夕闇へ蕩けていった。
初出:2022年3月24日
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