三方の小品【54:季節】
季節
季節 (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
カレンダーを、めくる。今月の予定を指でなぞりながら確認していく中、暦の上ではなんとかと特別な名前がつくだけで、なんだかうまく季節を一つ進められたようなそんな気持ちになる。
望もうと望むまいと平等に月日は流れ、季節も流れていくのだけれど。そっとひと掬いの1日に名前をつけて、特別に過ごすだけでより愛おしく感じられるような。
薄紅の満開の花咲き舞い散る切ない時も、眩しい陽の光に波の音が胸に熱い暑い時も、林檎の実も山の葉も真っ赤に色付く長夜の時も、あなたの瞳に映る雪が寒さを超えて胸を暖かくした時も。
どの瞬間も一つとして同じ時はなくて、戻らなくて。その事実はちょっぴり心がぎゅっとして、ほろりと溢れる何かがレンズを濡らすこともあったけれど。ぎゅっとする心と同じくらい──いえ……それ以上にまだ見ぬ先の未来に胸躍らせているのもまた嘘ではなくて。
また1つ、そしてまた1つ。チックタックと時計が木製の心地よいリズムを刻む中、分厚いノートにサラサラと今日のできごとを書き込んでいく。
雨上がりの土の香り、八百屋の店先の野菜の色づき、路地を曲がった瞬間に香る花の香り、ケーキ屋さんのラインナップの移り変わり、街中で流れる音楽のこと、江ノ電の行き先方向版を彩るイラストの変化も…………。
全て愛おしくて、切なくて、丸眼鏡に映る日々はまだまだ驚きと彩りがいっぱいで。どんな未来が待っているのか、ワクワクしながら今夜も「ふぅ」と、蝋燭の火を消して瞳を閉じるの。
初出:2022年9月1日
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