三方の小品【36:グラス】
グラス
グラス (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
鎌倉のどこかにあるかもしれない、レトロなカフェバーに訪れたことのある人ならばきっと一度は目にしたことがあると思う。
いつもは照明に照らされて、反射してガラス戸の中に佇んでいるそれを。
このお店で数多くのドリンクメニューを注文していても、そのグラスが使われた経験のある人は一人もいないのではないだろうか。
遡ること幾星霜、このレトロなカフェバーがひっそりと鎌倉に出現した頃。その頃からこのグラスはずっとここにある。レトロと言われれば、そうとも言えるこのグラスはいつだってこの場所の主と見まごうほどの大きな顔で棚に鎮座ましましている。片手で掴むのにちょうど良いサイズ、表面には青い花があしらわれており、氷を入れて飲むような爽やかなドリンクがきっとお似合いだ。ま、使われているのをみたことがないから、あくまでも空想だけれど……。
今日もガラス戸の中にはそのグラスがあって、会話をじっくり聞いている。
意を決して「今日はそのグラスで」と希望をしても、丸眼鏡はにこりと笑うだけでひょひょいとかわしてしまう。まるでそのグラスを使ったら何かを起こしてしまうかのようなその反応は、これからもずっとお店を訪れる人たちの興味関心を引き続けていくだろう。
初出:2022年4月28日
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