三方の小品【63:歌】
歌
歌 (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
白と黒の鍵盤を、ぐっと押し込んでみれば”ぽーん”と、音が鳴った。
うん。頷いて、両手を滑らせれば音符が連なり、音楽となる。
空気を吸おうとフウッと肺から息を押し出すと、自然に新鮮な空気で満ちていくこの感覚が嫌いではない。
口を開いて音符に乗せて、この歌声は遠くまで飛んで行かなくても良い。
紺色の夜にチリリ空気を震わせて、線香花火のように周りを淡く照らすくらいがちょうど良い。
大層控えめに、でも一音一音大切に。紡ぐ、奏でる、歌う。
パチパチと、花火の音にしては大きい音がしたと驚いて振り向くと、そこには笑顔の観客の姿が見えて。
びっくりするやら、気恥ずかしいやら、咄嗟に「練習で……」なんて口走ってしまう。
それならば完成した時に必ずまた。と言う優しい背中に背中を預けてまた”ぽーん”と音を鳴らしていく。
初出:2022年11月10日
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