五百頭の子牛を放生して男身を得た女官の因縁(『雑宝蔵経』より)
昔ガンダーラ国に1人の屠殺人がいて、五百頭の小牛を連れていた。その時、後宮の女官がいて、金銭を支払って小牛たちを買い取り、放生して去らせた。この因縁によって、その女官は現法のこの身で〔変成して〕男根(purṣa-indriya)を具足して〔男性となった〕(=変成男子)。王の後宮に帰還すると、〔男の身では後宮に入れないので、〕人を遣わして、王に告げさせた、「私何某は外にございます」と。王は〔使い人に〕言った、「これは我が後宮の人間ではないか。この者は自由に行き来してよいのだ。いままで人を遣わして言葉を伝えるなどということは無かったのに。これは一体どうしたことだ?」と。
時に王は元女官を呼び出してその理由を訊ねた。元女官は王に答えて言うには、「屠殺人がいて、五百頭の小牛を連れており、小牛を処分する所でした。そこで私はすぐに小牛を買い取って、放して去らせました。この因縁によって〔男子となり、〕身体に〔男根が〕具足することとなりました。それゆえ濫りに〔後宮に〕入らなかったのです。」と。王はこれを聞くと驚き喜んで、仏法に深い信仰心を生じた。さて、〔現法に於いて生ずる〕果報の先ぶれ(=花)ですら感じるところはこのように〔甚だ大きいものである〕。況や〔後生に於いて生ずる〕その〔異熟〕果をどうして量り知ることができるだろうか?