小児がん女子・シーズン2(7)

朝4時から鼻血が止まらないという。血小板が少ないから、血が止められないのだ。

昔、折原みとの「時の輝き」で、小さい男の子が擦り傷だかで血がとまらなくて…のようなことがあったと思ったが、「がん治療あるある」かもしれない。

急いで病院に行くと、病室の前に義父母がいた。義母は案の定、「どういうこと!」とちょっと取り乱していた。

長女は鼻に詰め物をして、さらにティッシュで鼻を押さえている。そのティッシュが、じわじわ血に染まる。

止血の処置はとられ、輸血もしている。もう、止まるのをひたすら待つしかないようだった。

長女は「ストーマ、隠しておいたよ。でも、看護師さんにお腹の様子見られたとき、見えたくさいわ」と、鼻を押さえながら伝えてきた。

前日、長女に「じいさんばあさん来たら、ストーマを隠しておいて」と伝えていた。見えたら聞かれるだろうから。

夫は実母とうまくいっていない。話したくないのは知っている。何か報告するときは父親に連絡する。だったら父親に言えばいいのに、結局母親に伝わるからいやなようだ。これは私の管轄外だ。

義父から「トリモチさん、ちょっと」と外に呼ばれ、案の定、質問が始まった。義母もいるかと思ったらいないし。どうなってるの、って思うなら私に直接聞いてくれよ。

「あの、お腹につけているのは?血?」

その日、ストーマの中身は茶色というよりは黒がかっていた。飲み込んだ血液のせいらしいが。

義父は、手術後につけるドレーンだと思っているようだ。そこで、以前外科の先生が夫にしたように、私は渡哲也さんの例を使って説明した。渡哲也さんと違うのは、これは一時的なものだということも。

渡哲也さんには、今回、とてもお世話になった(会ったこともないのに)。自分の両親や身内に説明するときにも同じ説明をした。

有名人が病気やその経過、結果を公表することで、同じ病気や処置が必要なときに「あの人と同じだし、あの人は元気に活動している」と、励ましになる。(病気や治療の説明がしやすいこともある。説得力があって助かる)

ストーマになった経緯や、化学療法をしなければいけないことを義父は理解はしたようだった。鼻血が止まらない理由や、治療後はいろいろトラブルが起きやすいことも。きっと、義母にもうまく伝えてくれるだろう。

今度来るときは、ショッキングな場面を見ないためにも安定しているときにしてほしいと伝え、義父母を見送った。

止まらなかった鼻血は、午後2時過ぎに止まった。10時間くらい出ていたことになる。鼻血が止まっても詰め物を外せず、ペットボトルの飲み物を飲もうとしたが「窒息する!」と怒っていた。

夕方には「味わかんないけどなんか食べたい」と、塩カルビ弁当を食べていた。立ち直りが早い。

化学療法は強い効果はあるが、副作用もそのぶん強い。その強さに自分の子どもが苦しめられているのを見て、月並みな言葉だけれど何もできない自分は本当に無力だと感じる。

でも、多くの小児がんを患っている子どもたちがそうであるように、長女は抗がん剤に打ちのめされても、また立ち上がる。「白血球上がって家に帰ったら、焼き肉行きたい」と希望をもって、日々自分の体の中にいるがん細胞と闘っている。

そうだね、白血球上がったら家に帰って来られるから、焼き肉でも行こうかね。このままなら、何事もなければクリスマスには帰って来られるしね。

などと長女と楽しみにしていたが、またまたトラブルが勃発してしまった。



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