[読書記録]サラバ!(下)(西加奈子)
夢中で読んでしまいました。勿体無い。
「完全なる崩壊」から始まる下巻。阪神淡路大震災です。1995年。この年は私にとっても特別でした。世の中が怯えたり、悲しんだり、大きく揺らいだ1995年。私にとってもたくさんの特別なことがあったのです。なので、私も人生において(1990年と)1995年は忘れられません。あの頃流行っていた歌もドラマも、暑かった夏のことも。
圧倒的だったのは矢田のおばちゃん、そしてそのおばちゃんとやはり歩くんの姉・貴子さんとの強く結ばれた凧糸のような絆でした。矢田のおばちゃんの一連の出来事に、それを受けた貴子さんの静かで素早いすべての動きに、涙が出ました。
矢田のおばちゃん、貴子さん、お父さん…、それぞれが何を見つめているのか、逃げていた歩くんには分からなかったことが、運命によってどんどんと明らかになって行き、明らかになるとともにようやく動き出せたこと、歩くんが感じたことに胸を打たれました。
ずっと先に、答えが見つかることもあるし、分からないまま生き続けてその分からないを持ったままこの肉体を離れることもきっとある。でもそれはきっとそれで良いのだと思います。「持っていろ」、ということなのだと。貴子さんは自分でそれを探し続けて、歩くんはその場にとどまりながらただ逃げ続けた先に震災や彼の地での事件が起こって、そして巡り続けて辿り着いた。いろいろなことにはきっと答えがあるのだろうけど、一つの肉体しか持たない私は(きっとこの世に生きる他の人も)、自分がもつ疑問に対する答えの全てには、辿り着かないのだろうと思う。でも、今は、きっとこれで良いのだ、と思えます。
そういうことだったのか、と涙を流す未来もあるのかもしれないし、辿り着けずに、みんなきっとそういうものだ、と諦めに似た、でも少し自分を許すようなすっきりとした気持ちのまま、生きて死んでいくのかもしれません。
不安を超える「怪物」、一人一人がいつか出会えるように、私も心から祈ります。