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[読書記録]「ふたつのしるし」(宮下 菜緒) / しるしへ向かってまっすぐ


それぞれの違う意味で「真ん中」には行けない、男の子と女の子の物語を読みました。
二人の名前は温之はるゆき遥名はるな、二人ともそれぞれの場所で、親しい人からは「ハル」と呼ばれています。

不器用に生きているように見える温之ですが、私は、温行の母・容子の視線が温行にとてもあたたかく、その集中力を羨ましくも思っていて、とても好きでした。
逆境に立つ息子(本人は全く動じていない)のためにいつも飄々と頭を下げ、つらいと思うのは息子のために頭を下げることではなく、息子が日頃から学校で「こんな」謝罪を強いられていると想像するのがつらい、ということ。
あたたかくて、息子を何よりも大切に思える素敵なお母さんなのだと思いました。

不器用な二人のハルはそれぞれに、大きな問題とぶつかりながら成長します。その過程はとても苦しいように見えるのですが、どこか僅かなあたたかみもあって、お互いにいつかしるしに気がつくのではないか、という希望とともに進む人生のようにも見えます。

それと、温之にとっての健太(小学校に上がってすぐに温行を認めてくれた友達)のような存在には、読んでいる私もとても救われます。
「気にすんな。おまえはいざという時のための人間なんだ」
この言葉が、温之のための言葉ではなく、健太が心から温行を、すごいと認めていることから出てくるというところにも、グッときます。健太は本当に「いつまでも蟻の行列を見ていられることができるハル」のことを尊敬していて、とても大切に思っているのです。

みんなまっすぐで不器用だけど、それだから「しるし」に気がつくことができる。大切なことが何かを知っていてそれだけは譲らずに生きている。それだけで十分なのだな、と思いました。
もっと二人のハルがどうしようもなく引き合う時間が見たいほどでした。でも、「しるし」が分かっていれば、それが全てなのかな、とも同時に思います。

読み終わった直後より、だんだん時間が経って、あたたかい気持ちが広がります。また宮下菜緒さんの他のあたたかい作品を読みたくなると思います。


温之が悲しむことなくいつまでも自分の世界で生きていられるように、ずっと何かに包まれていて、それだけでとてもあたたかい気持ちになれるので、とても良かったです。

私の人生の課題でもある、と思っています。

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とり子
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