『同じような男』 ショートショート
ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。
今回の3ワード:財布,ガム,本
『同じような男』
男は家についてから図書館で借りた本を開いた、すると驚いた。最も重要なページにガムが付いているのである。ずっと読みたかった本なのにそれにガムが付いていて読めないなんてあまりにも酷すぎる運命だと男は一人嘆いた。
どうにか剥がしてやろうと手を伸ばすが気持ちが悪くて触れたもんじゃない。薄ピンク色のべったりと貼り付いたガム、ほのかに香るイチゴの香りがますます男の気分を悪くさせた。
男は本屋にいた。仕方なくその本を買うことにしたのだ。男は財布の奥をじっと見つめた、見つめたってお金は増えやしない、でもそうしないとなんとも気持ちが落ち着かなかったのだ。男は数ヶ月前リストラを告げられそれ以来引きこもっていたとてつもない貧乏者だったのだ。
男が家についてから本屋で買った本を開くと驚いた。最も重要なページにガムが付いているのである。コーラ味の甘ったるい匂いが鼻にこびりついて腹立たしい。やっと読めると思って買った本にガムが付いているなんてあんまりだと、遂に男は怒り狂ってその場で一人暴れまわった。「もうこうなったらやり返してやる、報復だ」と男はいきり立った。すぐに近所のコンビニでミント味のガムを買ってくるとそれを早回しのような勢いで噛みまくり最も気に入ったページに吐き捨てると今度は近くの図書館へと走ってその本を寄贈した。
不注意な図書館員によって男のガム本は無事に本棚に並ぶことになった。男はその本を誰かが借りないかと今か今かとその瞬間を待って本棚の影からずっと観察していた。するとしばらくして遂に一人の男がその本の前で立ち止まり本を手にした。影からそれを見ていた男は「しめた、うまくいった」と思い、早速そのガム本を手にしてしまったマヌケな男の顔を拝見しようと本棚の後ろから回り込みすれ違いざまに横目で確認した。すると男は驚いた、信じられない現実に思わず二度見した。ガム本を手にした男の顔は自分に瓜二つだったのである。男は立ち止まることも出来ずしばらく歩いてからまた本棚の影に隠れて遠くから男を観察した。「あぁなんだあれは……まるで俺じゃないか」と男は思った。
一方、ガム本を手にしてしまった男はそれがガム付きの本であるとか、似た男が横を通ったとかそんなことは露知らずその本を片手に貸出カウンターへと向かっていった。男は自分のようで自分ではないその男の背中を本棚の影から見つめるよりほかなかった。
あの男は決して男と同じ男ではなかった。
同じような男だったのだ。そして男もまたいつかの同じような男であったに違いないのだ。
3ワードで作るショートショート
終