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Client Story : 長野県のパン屋『Josephine bakes』
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「もっとたくさんの人に届けたい」
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①目的「どうなりたいか?」
②譲れないもの「何は変えたくないか?」
目的:どうなりたいか?
「もっとたくさんの人にパンを届けて、パン屋で独立できたら夢のようです」
当時本人は、平日に事務の仕事をして、週末にパンを焼いていました。
とにかく大好きなパンを焼き続けるために、
『焼いたパンを売る』ということを始めたのだとか。
事務職で稼いだお金で、パンの材料を探求する旅に出たり、
海外から小麦粉やバターや塩を取り寄せるほど。
味が変わる要素は、材料はもちろん、多岐に渡ります。
* 水
* 気温
* 湿度
* 空気
* こね具合
* 発酵時間
パン屋さんは朝早く夜遅い、とても重労働な仕事です。
そのため、一般的なパン屋さんでは、こねた生地を冷凍しておきます。
ですが、Josephine bakesの黒田さんは、
「我が子を凍らせたくない」と言います。
そう、自分の焼くパンを、自分の子どものように大切に思っているのです。
なので、「大切に食べてくれる方に届けたい」とのこと。
それだけこだわったパンは、
材料費原価で2斤800円(高級パンの “販売” 相場価格)。
相場価格で売っていては、成立しません。
しかし、このパンを高い金額を払ってでも食べたい人はいる、
と鳥山は思いました。
なぜなら、ほんっとうに人生で出会ったことないレベルで、
2位に大差をつけて美味しいし、
次々と出てくる本人のパンへのこだわり・愛が尋常ではないからです。
「これだけ愛を込められたパンは他にない。本人の人柄もとても素敵。
それを求める人に届けたい。」
その一心で、このプロジェクトは始まりました。
譲れないもの:パンへのこだわり
当たり前ですが、すべてが現状のままなら結果は変わりませんし、
結果を変えるには、現状を変える必要があります。
変えられるものが多いほど、結果も変わりやすいのは間違いありません。
では、Josephine bakesが譲れないものは何なのか?
それは、『無添加で最高に美味しいパンの追求』でした。
鳥山「わかりました。パンに関しては、材料費を気にせず、思う存分追求してください。」
その結果…、ありえないほど高い原価になったのでした。笑
(Josephine bakesの原材料費=高級パンの “販売” 相場価格)
お前はどれだけの食パンを食べたことがあるんじゃい!
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人生イチ美味しいとはいえ、
鳥山はこの世のすべての食パンを食べた訳ではありません。
なので、まずは自分の中に比較的公平なものさしを持つため、
手に入る限り、ECで買える全国の高級食パンを取り寄せました。
見るのは、パンの味だけではありません。
* WEBサイト
* 注文の流れ
* パッケージ
* 同梱物
* その後のフォロー
注文前から食べた後まで、流れのすべてが学びの素材です。
素敵なパン屋さん、いくつもありました。
それでも、ひいき目抜きにして
「Josephine bakesのパンがもっとも美味しい」と思いました。
ただ、美味しさ以外は負けている部分がたくさん。
すべてが勝ち負けではなく、好みの領域もありますが、
ブランドとして考えた時に、先輩ブランドたちを体験して、
現状まだまだだなと思いました。
さて、弱い点が分かれば、そこからは挽回一択。
いよいよ本格始動!!!
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何を売るか?
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「パン屋なんだから、売り物はパンでしょ?」
と思ったら、それは違います。
もしそうなら、パンと価格だけでの競争になってしまいます。
パンだけの勝負は食パンコンテストでやればいい話で、
ブランドとしての戦いは、必ずしもパンだけではありません。
そのパンにまつわるすべての体験が、ブランド価値に繋がります。
ブランドの提供価値を一言で表すのが、コンセプト。
Josephine bakes(当時『気まぐれパン屋ひなたぼっこ』)のコンセプトは何か?
本人が思い描く理想のパンは何かと聞けば、『昔話に出てくるようなパン』とのことでした。
「ん???昔話?なんかパッサパサで、ボソボソして、美味しくなさそう」というのが鳥山の第一感想。
しかし、よくよく話を聞くと、
「昔話の中には農薬も添加物もなくて、その自然豊かで美しい世界で
焼かれるパンは、とってもピュアで美味しいはずなんです」と黒田さん。
「なるほど、たしかに。究極に無添加で上質ってことか」
と納得。
ということで、コンセプトは
『昔話に出てくるようなパン(無添加上質パン)』に決定。
(とはいえこの決定までに、上に書いたことの100倍は話をしてから、抽出しています)
さて、そのコンセプトが決まると、次は名前です。
『昔話に出てくるようなパン』を伝える名前は
『気まぐれパン屋ひなたぼっこ』がベストなのでしょうか?
答えは明かしてしまっていますが、
鳥山の回答は「NO」ということで、新ネーミングを考えることに。
column :名前を変えるのは至難の業
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突然ですが、もしあなたがパン屋さんをやるなら、どんな名前にしますか?
自分の大切なお店の名前です。
きっと、とても一生懸命考えると思います。
それこそ、一生背負っていくつもりで考えるでしょう。
さぁ、そうやって考えた名前で、お店を始めました。
お店はそれほど繁盛はしないものの、なんとかやってきて、3年。
周りの方も、その名前で認知してくれるようになりました。
でも、正直しんどい。もっと経営が安定したらいいのに…。
そこへマーケターがやってきて、パンをえらく気に入ってくれ、
仲良くなって、一緒に歩むことになりました。
その結果、とても良いコンセプトができました。
このコンセプトなら良さそうだ、と思ったものの
「お店の名前を変えませんか?」と言われたらどうでしょう?
きっと抵抗すると思います。とても嫌だと思います。笑
だって、愛着があるもん!
それに、名前を変えるって、本当に必要?名前を変えなきゃ売れないの?
どう思いますか?
鳥山は、『名前は一番の宣伝文句』だと思っています。
名前を言っただけで気になってもらえて、価値を想像してもらえたら、
それだけでものすごい影響力があります。
それこそ、広告費や説明の手間を節約してくれて、
事業規模によって、平気で数億円の差が出るでしょう。
あの『お〜いお茶』も、かつては『缶煎茶』という名前でした。
改名したおかげで、今の『お〜いお茶』があります。
鳥山は、目的を大切にします。
もし名前を維持するのが目的であれば、そこには手を付けません。
しかし、目的が良いものをより多くの人に届けることであり、
そのために名前を変えることが有効な手段になるのであれば、
変えることを真剣に考えます。
本気で一番の目的に向かう方と組むと、
その熱意に応えてくださることがほとんどです。
その分、名前を変える責任を感じるので、怖いんですけどね!
目的に本気だと、まっしぐらな鳥山です。
ただ、目的のために名前を変えることも受け入れられるかを問うために、
最初の「譲れないものの確認」があります。
スモールブランドの根本は、個人の歴史にある
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名前のヒントは、コンセプトを決める過程にありました。
というのも、そもそもなぜ『昔話』というキーワードが出てきたのかと言えば、本人が昔話の世界が大好きだからです。
その中でも特に好きだったのが『ピーター・ラビット』。
つまり、ピーター・ラビットの世界で焼かれるパンが、
黒田さんにとっての理想のパン。
さて、そうなると鳥山は『ピーター・ラビット』について調べます。
そして考えます。
ピーター・ラビットの世界で焼かれるパンって、どんなだ?
そのパンを焼いているのは、誰だ?
誰が焼くパンが、もっとも愛情が込められ、ピュアで美味しいんだ?
肝心のピーター・ラビット本人が食べるパンを焼くのは…?
ピーターのお母さんだ!
そこで、ピーターのお母さんの名前を調べることに。
(同時に著作権についても調べ、どうやら著作権切れであることが判明)
ピーターのお母さんの名前は「Josephine」。
Josephineが焼く(bake)…パン。
結果、文章として綴る
『Josephine bakes』
にしました。
『Josephine Bakery』も考えたのですが、
これだとまさにパン屋、という感じです。
ただ、イメージをパンだけに限定したくありませんでした。
というのも、黒田さんはピザやケーキを焼くのも大好きだからです。
文章化してbakesで終わらせ、bakesの後には、
今後パン以外も来れるようにしました。
Josephine bakes bread.
Josephine bakes a cake.
Josephine bakes pizza.
Josephine bakes …
最初は食パンに絞って売り出し、
その後、ケーキやピザも展開できるように。
さらに、その世界観に合う雑貨などの商品展開も視野に入れていました。
このように、コンセプトと名前は、
その後の戦略ストーリーを込めて設計します。
クラウドファンディングに呼ばれた
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「どう売っていこうか?」と考える中で、
その候補にクラウドファンディング(以下、クラファン)がありました。
ですが、本当にやるのか、やるならいつやるか、は未定。
そんな中、コロナ禍の飲食業のピンチを受けて、
CAMPFIREでキャンペーンが開始。
利用手数料が下がる、飲食店応援企画。もちろん、締切があります。
このタイミングで!?と思いつつ、「呼ばれてる」と感じたため、
応募しました。(人はめんどうなことを先延ばしにしがち)
やるっきゃない!
先に述べたコンセプトやネーミングは、
そのクラファンの準備を進めつつ、確立していったのでした。
集客にも下準備がいる
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クラウドファンディングとはいえ、立ち上げたら支援が集まる、
という訳ではありません。
「この人を応援したい」「このパンを食べたい」とならなければ、
支援は集まらないのが現実。
クラファンのページを作り込むのはもちろんのこと、
発信による信用づくりとファンづくりを並行して実施。
手をつけたのは、Instagram。
理由は以下2つ。
・黒田さんが一眼レフカメラで撮った美しいパンや景色の写真があった
・食にこだわったり、ナチュラル志向の方と出会いやすいと考えた
同時にTwitterも開設しておき、そこからもリツイートなどで
いくらか広めてもらえました。
ページ作成は鳥山と阿吽の呼吸のデザイナーさんに依頼。
クラファン経験者にも相談。
目標金額は20万円としました。
Instagram、Twitterと並行して、応援してくれそうな方、
一人一人にメッセージ。
それでも、とっても不安な走り出し…蓋を開けてみると、
最初の2日間で目標額を達成。
その後、ストレッチゴールを設定したり、お客様の声動画を追加したり、
リターンを追加したり、SNSで発信したり、
個別連絡を続けたりして、じわじわと支援を伸ばしました。
1ヶ月の募集期間を終え、
最終的には目標額の約4倍、785,997円を支援頂きました。
(まだ食べたことないパンに…非常にありがたい!)
やらないことを決める
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プロジェクトを進めるのは、基本的に黒田さんと鳥山の2人。
やれることを全部やる、という姿勢は大事ですが、
一方で、 “やった方がいい” ことを全部やるのは不可能です。
なぜなら、やった方がいいことは膨大にある一方で、
時間や体力には限界があるからです。
なので、やらないことを決めることが肝心。
そこで、
ことにしました。
SNSの更新は大変です。
そりゃ「なまけたこと言ってんじゃないよ」という視点もありますが、
できないことを無理しても仕方ありません。
それならいっそ『やらない』という選択もありでしょう。
しかし、上でも挙げた2つの理由から、知ってもらう手段としてInstagramは良いと判断したため、やることにしました。
ただし、頻繁な更新はあきらめる。
考え方としては、『準HP』です。
つまり、「Josephine bakesってなに?」と気になってくださった方が見た時に、ちゃんとファンになってもらえるよう、
載せるものは丁寧に作り込むけれど、頻繁な更新はしない、という方針。
一方でHPと違うのは、こちらからいいねやコメントなどで知ってもらう機会を作れたり、お客さんと直接のやりとりが生まれる『コミュニケーション』です。
その結果、「とても共感します」「ぜひパンを食べたい」と
長文のDM(ダイレクトメッセージ)が来るようになり、
クラファンの支援に繋がったり、パンが売れたりしていきました。
この方法は、必ずしも全員に勧めるものではなく、
プライベートでLINEすら使わない黒田さんにとって、
無理のない運用を考えた時に、この形になりました。
(質高く、頻繁に更新していけるなら、それに越したことはない)
<結論>
やらないことを決めるって、大切。
幸せのサイズ
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現在、Josephine bakesは新規集客をしていません。
鳥山も伴走から離れ、今は黒田さんが自分のペースで、
受注生産のみを行っています。
Josephine bakesという名前は、ピザやケーキ、雑貨や家具など、
今後の展開を見越して付けましたが、
必ずしも「拡大=幸せ」ではありません。
それぞれの人に幸せのサイズがあり、
それぞれの人に目的に費やせる時間もお金も体力も違います。
一番大切なのは、「本人が真に望むものは何なのか?」だと思います。
ビジネスも手段です。
その目的には、もちろん「お金を稼ぎたい」という場合もありますが、
お金すら手段で、真の目的は本人の内側にあるのではないかなと思います。
それが「自分が幸せでいたい」だったり、
「こんな世界を実現したい(実現できたら幸せ)」だったり。
このプロジェクトは、黒田さん本人が、
自分の幸せのサイズを見つけられたことが、
一番の成功だったんじゃないかなと思っています。
一緒に作ったInstagramは、今はほとんど運用していないにも関わらず、
いまだに初めての方から、熱いDMが来るそうです。
人生で一度は経験した方がいいほど、
ほんとうに美味しい黒田さんのパンが、ゆっくりでも、
求める方に届いていきますように。
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最後に:1つ応用するなら?
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最後に、Josephine bakesの例を、他社に活かすとしたら何か?
というのを考えてみます。
ここから先は、教えるスタンスというか、
完全に鳥山のおせっかい領域です。
なので、個人事業主や中小企業経営者など、
スモールブランドを育てたい方だけお読みください。
ブランドをつくるために、やらないことを決める
基本として、ブランドをつくることは、他社との差異をつくることです。
そのため、同じことをすればうまくいく、という訳ではないどころか、
むしろなるべく同じことをしてはいけません。(戦略の話)
同じことをしてうまくいくのは短期的なものだけで、
長く愛されるブランドを育てるには、独自性が重要です。
(同じブランドは2ついらない)
その中で応用できるとしたら『考え方』だと思います。
今回で言えば、『やらないことを決める』が最重要ポイントかなと。
(戦略上、基本中の基本ではあります)
特にSNS。
「やった方がいいからとにかくやろう」と始めて、結局続かない、
という例は多いはず。
もちろん、やってみてわかることもあるので、
やってみる精神は大切だと思います。
しかし、何かをやるということは、何かをやらない、ということです。
Aに資源(お金、時間、労力)を使う分、
BやCにはその資源を使えなくなります。
でももし、BやCの方が求める結果に対して有効だったら?
(=それに気づかずにAに資源を費やしていたら?)
Aの試行錯誤にお金も時間も労力も費やした結果は、
残念なことになるでしょう。
無駄なことをいかに捨てるかがカギ
マネジメントの大家、ピーター・ドラッカーが、次の言葉を残しています。
“元々しなくても良いものを効率よく行うことほど、無駄なことはない”
上の場合で言えば、Aの効率をいくら上げたところで無駄で、
そもそもAはやめるべきです。
戦略の基本は、『何をやり、何をやらないか』を決めること。
その選択が主観的な判断では難しいため、
戦略のお仕事で鳥山が活躍させて頂いております。
(いつもありがとうございます!)
大袈裟ではなく、アドバイス1つで、ウン百万円、ウン千万円を節約してもらえたりするので、『選択と集中』はバカにできません。
もっと言えば、命そのものである時間を節約します。
つまり鳥山はクライアントの命を守ります。
(おこがまし過ぎかもしれません…)
強いビジネスは守備が固い
『しなくてもいいことを削る』などの守備を固めた上で、
資源を集中した場所で攻めに転じます。
ビジネスは再起不能にならないことがもっとも重要で(人生も)、
その状態で挑戦し続ければ、挑戦が成功する確率はグンと上がります。
すべては、『やらないことを決める』ことから。
1つでも多くの価値が、1人でも多くの方に届きますように。
鳥山は今日も、夢中で仕事します。
やるぞー!やりましょー!
公式LINEやってます。よかったら気軽に繋がってください。
鳥山が相談したり、何かお誘いしたり、情報共有したりします。
いいなと思ったら応援しよう!
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