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虎の巻

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フィクション寄り
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#ネムキリスペクト

猫をなくした男と、女

今日あいつに似たやつを見かけた。 あっちもおれに興味があったみたいだ。 そう、男が女に話…

虎馬鹿子
3年前
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【掌編】真珠/黒玉

真珠   山田詠美がファッション誌で「いい女」を指南する書き物をしていた頃、私は怠惰な大…

虎馬鹿子
3年前
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【小説】麺女録

 さて文教のうんぬんなる看板が立つこのあたり、旧帝大の国立大学とその附属小中幼稚園をはじ…

虎馬鹿子
3年前
59

眠れぬ夜の奇妙なエスキース

 盆過ぎの、渡る夜風に笹の匂い、綿あめの匂い、綿あめの、は潰れた銀杏の実の匂い、腐臭は甘…

虎馬鹿子
3年前
48

【掌編】散歩

 右に銀杏、左に桜並木の小道に入ると、ほどなくして水路に沿う遊歩道に出る。水が水に落ちる…

虎馬鹿子
3年前
64

【掌編】夜伽

 石田吉蔵になるのも悪くないと海を隔てた恋人から言葉が届いた。日の当たるところは渡れず、…

虎馬鹿子
4年前
61

【小説】湯島地下

 湯島が学問の聖地であると知ったのはずっと後のこと。  ある年の師走深夜に手を引かれ、湯島の坂を上ったり下ったりを繰り返した。まばらな街灯は何やら低く古臭く、広がる光もごく小さい。やたらと暗く、黒い夜だった。歩くほどに寒さが身を刻んでゆく。パンプスと薄手タイツの足元はもう感覚が無かった。しんしんと冷え込むアスファルトを鋭く叩いたヒールの音が崩れ始めた。  通り過ぎた幾つかの建物はおそらくラブホテルだった。ネオンサインではない、英字の列をさっと照らしただけのそれらエントランス

【小説】墓地

 抜き差しならない関係とはこれいかにと、変に冷静なのはどうかしているのと矛盾しないと知っ…

虎馬鹿子
4年前
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amemiya

 いつ、どこで、なにをもって大人になったのだろう。という物語を考える。例えば、靴が濡れる…

虎馬鹿子
4年前
92

かたつむりの標本

こちらのかたつむりの標本、生きているときはうちの子でした。 かたつむりから殻をひっぺ剥が…

虎馬鹿子
5年前
77

【小説】石/泡

Ⅰ  モールス高度最高峰!の、ダイヤモンドを円環にした、エタニティ・リング、永遠の輝き、…

虎馬鹿子
5年前
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記録

今朝もタイムラインが窓を流れる。 自分だっていつまでこれに乗っかっているか分からないとい…

虎馬鹿子
5年前
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『埋める』連作

Ⅰ さみしい。 さみしさは穴に喩えられるが、つまり、そういう身体感覚である。 身体にぽっか…

虎馬鹿子
5年前
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#あの恋

「星好き」の小学生だった私は、学研の「星と星座の図鑑」も「星占いの本」も、同じように読みふけっていた。何冊もの「星占いの本」から、乙女座のあなたには清楚な魅力があるとたびたび告げられたが、「清楚」がなんたるかは辞書を引いても分からずにいた。 中二の春の新学期。隣のクラスの教室前の廊下を通ったとき、がらりとドアが開いて一人の女の子が現われた。清楚だ、一瞬でそう理解した。一目惚れに違いなかった。 体育の授業を男女毎に隣のクラスと合同で行っていたので、まもなく彼女の名前も評判も分