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育休復帰後は気負わずに働きたい ~パパ育休を1ヶ月過ごして~
育休も早1ヶ月が過ぎました。
最近は、自分の横で静かに眠る娘の寝顔を見ながら、仕事に追われていた時のことを思い出したりしています。
「うぇ、うぇ」って聞こえます、そろそろ娘が起きそうです。
...だっこ泣きでした。戻ってきました。えーっと、
3年前、突然の辞令で社内起業プロジェクトを任されたとき。
「6ヶ月以内に、新規事業の実現可能性を示せ」という任務と、たった500万円の予算。
しかも、チームはおろか、大阪への転勤も相まって相談できる先輩社員もいない、完全な単独プロジェクト。
当時26歳だった私には、重すぎる責任でした。
私はシステムエンジニアなので、ITの先端技術を使ったサービスの設計・実装をしながら、市場分析やビジネスモデルの検討を重ねる日々。
けれど、まとまるべき構想はなかなかまとまらず、夜になると「こんな中途半端なアイディアで通るはずがない」という不安が頭をぐるぐると巡り、不安とストレスに苛まれる日が続きました。
きっと、皆さんも似たような経験があるのではないでしょうか?
重要なプロジェクトを任され、その期待に応えられるだろうかと不安に押しつぶされそうになる瞬間。
「できない」という思いが頭から離れず、現実を突きつけられるもどかしさ。
あぁ、娘とずっと一緒にいたい。
でも、娘を立派に育て上げるためには、働いてお金を稼がねば。
おや、私は復職後に、私は子育てと仕事の両立の日々に耐えられるのか?
そうして、私は昨日、ハーバード大学の心理学者、スコット・H・ヤング氏による「5 Tips for Staying Calm (When You’re Stressed)」を読んだわけでした。
育休を取得して、仕事から少し距離を置いた今から、当時を振り返ると、この記事に書いてある「認知行動療法」に基づいた不安への対処方法は、困難な仕事に取り組む私たちのために、実用できそうだと感じました。
3年前の私のように、これから待ち受ける不安や重圧を乗り越えようとしている方に向けて、私の読んだこの記事の要点を、私の経験も交えながら、まとめていきたいと思います。
1. 心配や悪いストレスの弊害
プロジェクト開始から数ヶ月が経った頃、私は完全に行き詰まっていました。
どうすれば会社の強みを活かせるのか、その答えが見つからない。
毎週の進捗報告で、上司から「それをうちの会社でやる意味は?」と言われるたびに、胃が締め付けられる思いでした。
そこで、私は以下のような思考に囚われました、
「アイディアとクリエイティブ、そしてテクノロジーそのものが優れていれば、自社のアセットと関わらない飛び地の事業領域でも、経営陣も納得するはずだ」
まさに私は一つ目の落とし穴にハマっていたようです。
ヤング氏は、ストレスやプレッシャーのかかる状況で、私たちは2つの落とし穴に陥りやすいといいます。
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一つは「回避」という罠。
私の場合、自身のアイデアを磨き上げることばかりに時間を費やし、本来、前提となる意思決定者たちの「問い」である「新規事業において既存事業はどう生きるのか?」という課題から目を背けています。
もう一つは「思考の渦」。
不安な気持ちが、脳のワーキングメモリを占領してしまい、タスクに取り組むためのメモリがなくなります。
一向に、経営陣の問いかけに対する、答えが見つからない。
そんな日々のストレスとプレッシャーが頭の中を支配して、クリエイティブな発想作業に集中できない。
まさに、私が陥っていた状態でした。
2. 心理療法を使った重圧のかかる仕事に立ち向かうためのアプローチ
以下、ストレスに対処するための心理療法のアプローチを抜粋した、いくつかの戦略をまとめます。
⚫︎ ソクラテス式問答法
ヤング氏によると、私のような状況で最も効果的なのが「ソクラテス式問答法」だといいます。
これは不安障害の心理療法である「認知行動療法」の中核をなす手法で、自動的に湧き上がる否定的な考えに対して、意識的に質問を投げかけていくというものです。
大抵の不安は、根拠がわからないまま漠然と不安になる「反射的思考」によって引き起こされる不安です。
「なぜそう思うの?」
「どうしてその考えは自分に必要なの?」
「もう少し具体的にするとどういうこと?」
といった自分の意見や考えを引き出して、自分が持つ矛盾や不十分な部分を明らかにするような「問い」を投げかけることが重要です。
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繰り返しになりますが、こうした不安は、【反射的な思考】が生み出した深く考えられていない「非合理」な思考であることが大半です。
このような思考は、間に受けるのではなく、【意識的な思考】が「合理性」を持って、その考えを解き解してから、受け止める必要があると思います。
その思考が「100%真実」なのか、それとも「0%」なのか、あるいは「その中間」なのか。
よく考えれば、同意できない考えを無意識に受け入れる前に、自分に問いかけて、自分に気づかせてあげましょう。
こちらは、「考え」が浮かんだと思ったら(これが難しい)、紙やページに書き出してみる習慣と相性が良いです。
外に書き出すことで、客観的に見れますので。
今なら、Chat-GPTに話しかけてもいいかもしれませんね。
ソクラテス問答法のプロンプトを作っておけば、
掘り下げまで自動化できそうです。
⚫︎ タスクを、「実験」として扱う
もう1つが、タスクの1つ1つを「実験」として捉え直す視点です。
「実験」を辞書で引くと、以下のような意味でした。
理論や仮説が正しいかどうかを、人為的な操作により実地に確かめること、または、実際の体験
仕事における「これは、この人たちに売れる!」といった仮説は、大元が頭の中で繰り広げられる「根拠」と「類推」によるものですが、それが正しいかどうかの答えは実地にしかないですよね。
新規事業に失敗はつきものです。
「100回やって3回成功するもんだ」って言われることもあります。
要するに、完璧な事業計画を一発で作り上げようとするのではなく、「このアプローチでダメなら、次はこの切り口で試してみよう」と失敗から正しい「根拠」と「類推」を学ぶ他ありません。
「実験としての捉え直し」は、恐怖症の治療でも使われる「暴露療法」の考え方に紐づきます。
「暴露療法」とは、恐怖や不安を感じる場面や対象に意図的に、段階的に身を晒すことで、不安や恐怖に対する感情的な反応が徐々に和らいでいくというものです。
仕事でも同じように「意図的」に「段階的」に
アイディアを誰かに晒してフィードバックを受けるアプローチが有効です。
まず社内の近しい部署の方々に相談し、その反応を見る。
次に、より客観的な立場の部署の方々に意見を聞く。
そして、見込みの顧客に見せてみて、意見を聞く。
最後に経営陣へ。そうすれば、各段階での学びを次に活かせます。
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これは単なる失敗回避の戦略ではありません。
むしろ、各ステップを「実験」を通した「学びの機会」として捉え、そこから得られた気づきを次の施策に活かしていく。
そんな建設的なアプローチだったのだと今ならわかります。
⚫︎ 目の前のステップを完了することを目標にする
次に、ヤング氏が提唱するのは「マインドフルネス」の考え方。
ご存知の方も多いと思いますが、これは近年、
不安障害の治療法として科学的な効果が実証されてきた手法です。
「マインドフルネス」=「瞑想」と紐づけてしまいがちですが、本質は、特定の対象(呼吸や体の感覚など)に集中したり、判断したりコントロールしたりせずに主観的な感情(mind)に気付こう(Awareness)とする活動を指します。
仕事でも、未来のイベントや未来の自分の姿に気を取られますよね。
私たちの心配事のほとんどはこのような「未来志向」です。
「来週の経営会議で却下されたら」
「3ヶ月後に成果が出なかったら」
「もし失敗したら、私のキャリアはどうなるのか」
そんな未来への不安は、まるでモヤモヤとした霧のように、目の前の作業を曇らせるものです。
「マインドフルネス」は、そうした未来への不安から意識を解き放ち、今この瞬間に集中するために役立ちます。
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目の前のプログラミングや、顧客との会話の一つ一つ、すなわち「次のステップを完了すること」に、全力を注ぐこと。
意図的に、目の前のステップ以外の仕事には、
注意を払わないようにすること。
これには、ToDoや思いついたアイデアを、自分の外に、書き出す習慣をつけることをお勧めします。
私は、NotionなどのスマホでもパソコンでもアクセスできるようなMemoアプリを使いつつ、やっぱり手書きが好きなので、以下のノートを大量に買って、持ち歩いています。
⚫︎ 計画には「実行意図」を使用する
社会心理学者のピーター・ゴルヴィッツァーが提唱した「実行意図」の基本的な概念は、
”金曜日までにプレゼン資料を仕上げたい”
という目標を単に設定するのではなく、起こりそうな障害に直面するシナリオを思い描き、
【行動のトリガー】
”他の仕事に追われて、疲れ作業する気がしないときは、
【習慣化/実行したい行動】
1 ページだけ仕上げる”
というように、「〇〇したらXXする」という
具体的な意図を、目標に添えることです。
”XXしなければいけない” という「意識」と
”実際にXXする” という「行動」には、大きなギャップがあります。
ここに、「実行意図」という、「いつどこで」「何をする」かを設定しておくことで、「行動」が自然と取りやすくなります。
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この「実行意図」を、1週間の仕事の計画を立てる際に使用しましょう。
ストレスの多い仕事は、そのストレスを視覚化し、「実行意図」を設定することで、実際にストレスやプレッシャーに直面したときに、諦めたり先延ばしにしたりする衝動的な反応を克服できます。
⚫︎ アウトプットよりもインプットを重視する
そして、私が最も当てはまった学びが、「成果から過程への意識転換」です。これが、使えるストレスな状況よくありました。
1日かけて予定していた全ての仕事を終えると、当然、気分が良いです。
一方で、1日働いて行き詰まり、何も達成できないと、そうとう気分が悪くなりますよね。
「今日は何も成果が出せなかった」と自分を責め、さらに大きな不安に襲われる。
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ヤング氏によれば、このような結果や成果への過度な執着が、かえってパフォーマンスを低下させるといいます。
特に、クリエイティブな仕事や、答えの見えずらい新規事業の立案のような企画業務において、効果を発揮します。
これらの業務は、自分でコントロールできない要因が多すぎます。
そんな時に成果だけを追い求めると、かえって心が折れてしまうのだと今ならよーくわかります。
代わりに必要なのは、インプットすなわちプロセスへの集中。
「今日は〇〇について、3時間考える時間をとる」
「午前中は〇〇の整理に集中する」というように、具体的な行動とその実行に焦点を当てること。
その時間、真摯に取り組んだという事実だけで、自分を認めてあげること。結果は、そういった積み重ねの先についてくるものです。
この戦略は、仕事の結果を得るために摩擦がある場合に効果的です。
一方で、定型的な業務や短期的な課題については、従来通り結果にフォーカスする方が効率的な場合もあります。
その見極めも、また重要です。
3. その不安は一時的か?
正直、これらのアドバイスは、一時的なストレスや不合理な不安に対して、逃れるためには有効かもしれません。
ただ、早々に逃げるべき状況ならば、話は別です。早く逃げ出してしまった方がいいです。
ヤング氏は、挑戦する価値のある状況とは次のような状況だと言います。
あなたの長期的な価値観と一致しているか
たとえば、医学部で苦労しているが、それでも医者になりたいと思っているなら、その苦労は価値があるかもしれません。
しかし、医学部で苦労していて、医者になりたくないが、両親をがっかりさせずに他に何もできないと感じているなら、その苦労はおそらく価値がないです。敬意なく接してくる人が関係しているか
ストレスの原因が、敬意を持って接してくれない上司や同僚である場合、ストレスを軽減しようとするよりも、問題の関係に直接取り組む方が効果的かもしれません。
関係をより健全な状態にするか、関係する性格が調整を望まない場合は、逃げるかのいずれかです。永続的ではなく、一時的なものでないか
短期的な仕事量の増加、経験不足、突然の変化など、状況が一時的にストレスになる場合は、ストレスに耐えることが多くの場合良いことです。
対照的に、変化に適応する機会があったとしても、ストレスが慢性化する場合は、他の場所を探したほうがよい場合があります。
最後に
最終的に、私の新規事業提案は承認されました。
しかし、会社統合により、中止を余儀なくされました。
目の前の仕事に精一杯取り組んでいたので、後悔も何もありませんが、会社環境の変化のようなマクロなトレンドを読むことも大事だと学ぶ、良い機会になりました。
さて、経験不足、突然の変化など、状況が一時的にストレスになる場合のストレスは、きっと前向きなストレスですよね。
そんな前向きなストレスは、これから生きていく上で避けられません。
また、自分のためにも避けるべきではないですよね。
子育てでも、娘を沐浴するのも、おむつを変えるのだって、経験不足の不安に過ぎなかったと、今ならわかります。
ふと、仕事復帰後の心配に苛まれたりしたわけですが、改めて、今この瞬間、娘を抱き上げてハグすることに集中すること。
こうした、娘と一緒にいれる時間(プロセス)を大切にすること。
あぁ、あと何回抱っこさせてくれるんだい、君は。
完璧な親であろうとするのではなく、5ヶ月間の育休を活かして、一日一日の小さな発見を大切にすること。
将来の不安に囚われるのではなく、目の前の娘との時間に集中すること。
今朝、娘が「新生児微笑」でなく、自然に笑顔を見せました。あぁ、かわいい。
ビジネスでも、育児でも、なんでも。
生きていく私たちに必要なのは、同じ心の持ち方なのかもしれません。
また、娘が呼んでいます。さっきプリプリ聴こえたし、そろそろオムツかな?
参考
5 Tips for Staying Calm (When You’re Stressed) by Scott H. Young
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