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2022年秋アニメ感想 ヤマノススメ Next Summer
『ヤマノススメ』もシリーズ第4期。続くものだなぁ……。
『ヤマノススメ』は2017年に「5分アニメ」としてスタートし、評判の高さから第2期から15分アニメに拡大。第3期も15分アニメだったが、第4期に入っていよいよ30分枠アニメとなった。
少しずつ階段を登るように拡大していく……というのもこのシリーズらしい。
ただし、第1話から第4話までは新規ショートストーリーありの総集編。本編は5話から……と変則的。
なんでこんな変な構成にしたんだろうか……たぶん、そもそも30分1クールやるような物語がないからでしょう。「物語がない」といっても、アニメを見るとほとんどのカットが取材の成果物がないと作れないような画ばかりなので、時間も予算もかかる。クオリティ維持のために、「30分1クール枠」を取れちゃったものの、「実質7話」という選択を採ったのでしょう。
私としては内容を妥協されて話を長くするよりかは、できる範囲を定めてクオリティ高めてくれた方がありがたいので、こういう構成法もありと受け止める。
内容を見ていくと、第5話前半は登山部部長・千手院小春から登山部への勧誘を受ける。「登山部」なんてあったんだ……。しかも男いるし。第5話後半は母親と一緒に武甲山に登る。
第6話は前半は小野塚ひかりの傷心デートに付き合わされる。後半はクリスマスエピソード。
第7話は前半が初日の出を見るために日和田山に登る。後半はクラスメイトと一緒に高尾山。雪村あおいも成長したものだ。
と、結局のところお話しは前半・後半と別れていて実質15分アニメ。そのお話しもなくていいようなもの。でも、それでいいんだ。山の風景と女の子、という組み合わせさえあれば、それで充分。むしろ物語なんてものがあると、「山と女の子」という情緒が楽しめなくなる。
第3期では後半に雪村あおいと倉上ひなたとの諍いがあったのだけど、予定調和的なお話しで、ドラマとしてさほど魅力的でもなかった。『ヤマノススメ』みたいな作品には物語なんて特に必要ないのだ。
(『ゆるキャン』も物語がないところが一番面白かったわけだし)
第4期『ヤマノススメ』の見所は作画。描く人によってキャラクターがぜんぜん違う。例えば雪村あおいは頬に髪の跳ねがある……という設定だが、これすら遵守しないアニメーターがいる。大雑把なキャラ設定さえ踏まえていれば、髪の跳ねや線の量といったものにこだわらず、アニメーターそれぞれの裁量で絵を作ってもいい……という感じのコンセプト(?)になっている。
これがうまく機能していて、どのカットも不思議と絵がのびのびとしている。シーンによっていきなりキャラクターが変わる……という場面もあるけれど、むしろその変化が楽しい。
今のアニメユーザーはほんのちょっと設定と絵が違っていたら「キャラ崩壊だ!」と大騒ぎするタイプが増えたが、この作品に限ってはそう言う人がまったくいない。私はニコニコ動画でも見ていたのだが、絵がいきなり変わっていても、そこで大騒ぎする人は皆無だった。(ニコニコ動画のユーザーがそれだけ成熟してきた……ということでしょう。オッサンばっかり……という意味でもあるけど)
昔のアニメ……私が知っている90年代や2000年代初期のアニメはむしろこんな感じだった。話数によってぜんぜん絵が違う。担当アニメーターによって絵が変わる。作画監督によって絵が変わる。その違いを楽しんでいたし、そこで作画監督の存在を認識して、好きなアニメーターが生まれたりする。(私は人の名前をちっとも覚えないので、絵だけで「ああ、あの回と同じ人だ」みたいな認識の仕方をしていた)
そういう時代にみんなで逆戻りした感じがしていて、妙に楽しい。アニメーターによってキャラ絵が変わっちゃうから、どうしてもアニメーターの存在を認識せざるを得ない。そういう絵描きの手触りがわかる……というのがちょっと嬉しい。
では私が注目したシーンやエピソードの紹介。
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第1話。図書室にやってきた雪村あおいが、本を見付けてちょっと小走りになる。足の運びがきちんとしていて、見ていて心地良い。手を伸ばしたとき、脇から背中へ皺が伸びていく動きも自然に感じられる。
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何気ないカットだけども……。前当てがセーラー襟の内側に入っている。前当ては「フォルム重視」でセーラー襟の外に飛び出させている作品が多い。京都アニメですらそう描く。でも実際には前当てはセーラー襟の内側!
ただセーラー服愛好家の意見として、奥側のセーラー襟の厚みをもうちっと描いて欲しかったなぁ。
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エンディングは毎回書き下ろし。カット枚数がやたらと多く、そこだけでエピソードが1本分ありそうなくらい作り込まれている。絵もいい。よくできている。
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第2話新規追加アニメ『走れ! ヤマガール』。
『ヤマノススメ』といえばロケハンやって背景を作り込むのだけど、第2話だけはあっさり水彩画。キャラクターとその周囲しか描き込まれていない。むしろこっちのほうが『ヤマノススメ』のキャラクターに合っているのでは?
キャラクターの動きは生き生き動いて痛快。ただ、コマ数が少ないので、どうしてもパタパタした感じが出ちゃっているのが惜しい。コマ数の問題だけは仕方ないのだけど。
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デジタルを使用しない、背景を含めてすべて手書きで作られた気合いのカット。背景動画は昔から手間暇かかるもので避けられる傾向にあったし、今の時代だとCGで代用するようになって描ける人も減ったと言われているが……。こういうところが「作画に気合いの入っているヤマノススメ」。
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第5話からやっと新シリーズスタート! ……ということもあって妙に気合いの入った描写。なに色気出してるんすか?
画面の上下にふんわりするフィルターが入っているし、教室の奥に向かって距離感が出るようボカシが入っている。キャラクター、撮影ともに気合いの入っていることがよくわかる。でも前当てはセーラー襟の後ろだ!
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情景描写の一つ。手前の鞄は質感などは載せていないけど、フィルターがしっかり乗っているし、奥の机、キャラクターに向かって距離感が描けているので、この1カットだけで情緒が感じられる画になっている。
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千手院小春登場シーン。ここは動いているところを見てほしい。腕の動きがリズミカルで楽しい。ここからノーカットで雪村あおいの机をバンと叩くまでの動きが入る。背景までしっかり描かれていて、楽しいカットになっている。
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お食事シーン。特に何というわけではないが、お気に入りシーンなので取り上げよう。
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ジャージに着替えるシーン。胸の下のところでチャックが引っ掛かる演技が入る。すごくいいのだけど、胸の下で詰まった後、じわっと動かして欲しかった……。
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またまたNOデジタルの手書きによる背景動画。しかも繰り返しパターンなし。背景動画は昔から大変な動画で、死にそうになるというか死人が出る。それでもしっかりやってみせている。
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特に何というわけではないが、青羽ここな登場シーン。みんな大好き、私も大好き。ここなはアニメらしい軽やかな動きで雪村あおいと伴走する。
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登山部の活動。普段はひたすら体力作り。走って山に登って、戻ってくる……という活動をやっているのだけど……いったい何が楽しいんだ? ガチ勢の楽しみ方、というのは素人にゃわからん。
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第6話は小野塚ひかりの傷心デートに付き合わされる……というお話しだが、絵の省略法が独特。アニメの定番に捕らわれず、大胆に線が省略されて、スマートなスタイルになっている。どこか児童文学の挿絵みたいだけど、こういう絵も良い。
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レイアウトはバッチリ決まっているのだけど、難点はキャラクターと背景のギャップが大きすぎること。スタイルのまったく違う絵を重ねているから、写真にイラストを合わせているように見えてしまう。
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第6話後半は明らかに作画が変わる。こちらのほうが標準的な『ヤマノススメ』の絵。
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千手院小春と青羽ここな。なにげなく設定を見ると……千手院小春が143センチで、青羽ここなが144センチ。実際には1センチ差。しかしあえて身長差が強調されている。
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オマケ。せっかくキャプションしたので載せちゃおう。
こんなにキャラクターが集まってきて、群馬県から黒崎ほのかも参戦したけれども、顔見せだけで物語が生まれる気配はない。でも『ヤマノススメ』みたいな作品は、それでいい。物語なんて不要なのは、『らき☆すた』や『けいおん!』からの伝統だ。
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エピソードの最後らへんなんだけど、ここでキャラクターの頭身がちょっと変わっちゃう。
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第7話。目がとても大きい。でも妙にふわっとした感じがあって可愛い。もともとのキャラクターデザインを見ると、目の上目蓋のフチと瞳はくっつけるように描くのが基本だと思うのだけど、あえて放して描かれている。アニメーターの癖だろう。
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高尾山を登って寛いでいる場面。ここだけ絵が極端に変わっている。でもこのクチャッと崩れた感じも独特で可愛い。本来、ここまでキャラクターが変わるとリテイク対象か作監修正が入るものだけど、あえてこのキャラクターがそのまま使われている。現場でも「面白いからこのまま使おう」というノリになったのだろうか。アニメーターがのびのびやっている感じが伝わってくる。
問題なのが次のカット。
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写真……だよなぁ。キャラと背景が全く合っていない。表現としていかがなものだろうか……という絵になってしまっている。
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絵が魅力的な『ヤマノススメ』だけど、わかりやすい弱点が一つある。キャラクターと背景の抽象度が合っていない。色彩で合わせているのだけど、ギャップが大きすぎて、ふとすると写真にキャラクターを載せているように見えてしまう。
(同じ問題は『ゆるキャン』でも抱えていた。実際の舞台のある作品で、詳細にロケハンすればするほど、この問題を抱えてしまう)
私も経験があるのだけど、丁寧に書こう、形をきちんと捉えよう……するとどんどん書き込んでいって、写真のようになってしまう。するとどうしてもアニメスタイルで描かれたキャラクターの顔とギャップが生まれてしまい、まるで頭だけ着ぐるみを被っているかのような気持ち悪い絵になる。
これは絵描きの性でもあるんだ。絵描きは余裕さえ与えると、どこまでも書き込んじゃう。完成形がわからないと、ひたすら作業をし続けてしまう。するとどうしても抽象度の高いアニメキャラクターとのギャップが生じてしまう。
漫画やアニメはむしろサクッと描いたほうがいいんだ。サクッと描いたほうが良いけど、ものの形や質感は正確に捉える。そのほうが絵としての完成度は高くなる。それ以上に描くのは、自信のなさの表れでしかない。
『ヤマノススメ』は実在する舞台があって、その舞台を丁寧に捉えよう……と頑張りすぎている。その頑張りが暴走して、絵の完成形として逆に中途半端なものができてしまう。
これがロケハンやって画作りをやってしまう場合の問題点。絵描きは真面目な性分だから、「完成形はこれ!」という基準を見せないとどこまでもやっちゃうんだ。
演出家の務めはそういうときの絵描きの「やりすぎ」を諫めること。丁寧に作品を作っているのはわかるけど、それゆえに逆にマイナス点を作ってしまっている。そこが惜しい。
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